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お志津
104 消えた手紙
身を切られるような別れの後、二人はすぐ手紙を書いた。 秋の葉の落ちるがごとく、ひっきりなしに恋文が行き交い、どちらの学校でも話題になった。
しかし十一日目になって、ぷつりと敦盛の手紙が途切れた。 志津は三日間待った。 忙しすぎるのかもしれないし、風邪を引いたのかもしれない。 勝手にやきもきしたり、返信をせがんだりしてはいけないと思った。
だが四日目に我慢の限界が来た。 それで一筆したためたが、今度の手紙は敦盛宛ではなく、妹の綾野に書いた。
返事は二日後に届いた。 とても分厚く、切手が余分に貼ってあった。 志津が鋏を使う時間も惜しんで手で封を切ると、中から封書が二つ出てきて、一つの表書きは明らかに敦盛の字だった。
志津の心臓が跳ね上がった。 まさか、まさかとは思うが、縁切りの文書では……。
とても最初に読む勇気がなく、志津は細かくふるえる指で綾野からの返事を先に開いた。
『急呈
志津おねえさまへ
お手紙を読んで驚きました。 兄は肝心なことをおねえさまに伝え忘れたのでしょうか。
訓練所への出発が十八日と決まり、兄はいったん家に戻ってから、家族だけでなくご近所の方々にも送られて、神奈川駅から出ていきました。 ぎりぎりまでおねえさまが来られるのを待っていて、とうとう逢えないとわかると肩を落としていました。
そのとき、この手紙を私に預けたのです。 万一すれちがったときのために書いておいたそうです。 こちらではおねえさまの手紙が届かなかったので、まだ学校のほうにあるはずだと気にしていました。 家に戻ることはちゃんと返事に書いたのに、と首をかしげておりました。
きっと戦時なので、逓信局(郵便局のこと)が忙しく、手紙が途中ではぐれてしまったのでしょう。 私に問い合わせてくださってありがとうございます。 兄はこれからは、ご実家とお勤め先の両方に手紙を出すと申していました。 そうすれば、はらはらすることがないからと。
ご心配をおかけして申し訳ありません。 どうか兄の武運長久を祈ってやってくださいませ。
草々 綾野』
読み終えると、志津は膝が抜けて、どさっと自室の畳に座り込んでしまった。
敦盛の気持ちが冷めたのではなくて、本当によかった。 だが、ほっとすればするほど、入隊の日に見送れなかったという悲しさが大波のように盛り上がった。
これまで手紙が途中で消えたことは一度もなかった。 それなのに、こんな肝心なときに届かないなんて……! 信じられない巡り合わせだった。
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