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お志津
24 書生たちと
三人が馬車で帰りつくと、きれいに掃き清めて水を打った門のところで、書生たちが顔を揃えて出迎えた。
そこで初めて、志津は彼らの正確な人数を知った。 十代から二十歳そこそこの青年が三人。 それに、どう見ても三十過ぎの大男が一人混じっていた。
書生たちも、間近で志津を見たことがあるるのは石上だけなので、視線が釘付けになった。
その様子を見て取った俊氏が、さりげなく紹介した。
「そう言えば、志津子は離れにいるから、この連中を知らなかったね。 背の高い男が筧〔かけい〕、眼鏡をかけているのが元山〔もとやま〕、腕白そうなのが島崎〔しまざき〕で、日に焼けているのが石上だ。
君たち、この子が前に話した、姪の志津子だよ」
先に馬車を降りた志津は、名前が出るたびに、その青年に頭を下げた。 相手も少しかしこまって、首に巻いていた手ぬぐいを外したり、襟元を掻き寄せて直したりして挨拶を返した。
最初に口を切ったのは、いかにも度胸が据わった感じの筧だった。
「いやあ、麗しかお嬢さんですな」
志津は思わず目を丸くした。 麗しいとは、お世辞にもほどがある。
しかもこの人、麗しい、ではなく、麗しか、と言ってなかったか?
俊氏は笑って問い返した。
「薩摩おごじょと、どちらが綺麗かね?」
「そりゃ言いもわん」
ああ、薩摩の人。
志津は好奇心半分、やや冷たい気持ち半分で、背が高く彫りの深い顔立ちの筧を眺めた。 京都でも江戸でも、薩摩兵の評判はあまりよくなかったのだ。 横柄〔おうへい〕で、特に女を見下げることで知られていた。
だが、もちろん愛される人材はいた。 西郷隆盛はまっすぐな人で、気配りもあり、全国的な人気を誇っていた。 だから彼が中央政府から疎外され、乱を起こして世を去ったとき、世間は大いに悲しんだ。
他の書生たちは、ちらちらと志津に視線を送っていたが、言葉はかけてこなかった。 みんな若く、はにかみがあったのだろう。
そんな中を、志津は伯父夫妻と共に玄関へ向かった。 人生で初めて、気詰まりというものを感じながら。
その背に、陽気な大声がかかった。
「しっかり勉強しなされ。 応援するから」
あれっ?
志津は反射的に振り向いた。 すると筧が煮しめたような黄ばんだ手ぬぐいを振って、顔一杯に笑いを浮かべて見送っていた。
先入観が、一気に吹き飛んだ。 筧はわざわざ標準語を使って、志津にわかるように激励してくれたのだ。 明るくて親切なおじさんだ!
たちまち志津も特大の笑顔になった。 そして澄んだ大声で返答した。
「はい! ありがとうございます!」
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