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面影 79
進藤はもう一人の従卒である柳瀬〔やなせ〕を連れて勤務中だという。 女ばかりじゃ無用心だと言って、賀川は進藤に到着を知らせに行かず、そのまま玄関近くの小部屋に居座ってしまった。
仕方なく、お次の指示でお明がとっくりとメザシを持って行った。 賀川はご機嫌で、お明にも一杯勧めた。
「飲め、ほれほれ」
「昼間っから要りません」
「冷たいこといわんで。 はたへ来てついで、な?」
せがまれて、本当は酒好きなお明も頬をゆるませ、横にぺたっと座って熱燗を酌み交わし始めた。
進藤は、風がすっかり冷たくなった夕刻に、柳瀬を連れて戻ってきた。
すっから出来上がった賀川が、ふらつきながら小部屋から現れ、あやふやな敬礼をした。
「賀川壱蔵、本日到着いたしました!」
進藤は苦笑して、靴を脱ぎながら尋ねた。
「あの女子は?」
「ゆき子はんは、お元気です。 離れで休んじょります」
ゆき子? と呟いて、進藤は目を上げた。
「名前を思い出したんか?」
「いやー」
首をかしげようとして、賀川は大きくよろめいた。
「子供がつけた仇名のようで」
「そうか……呼び名がのうては不便じゃき」
そう納得すると、進藤は部下に剣を預け、着替えをするために長い廊下を歩いていった。
「入るぞ」
襖の向こうで、聞き覚えのある篭った声がした ゆき子は火鉢の傍で思いに沈んでいたが、急いで立ち上がり、座布団を取りに行った。
「はい」
すっと襖が開いて、袴姿の進藤が入ってきた。
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