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丘の家 93
「史麻ちゃん!」
上ずった声が呼んだ。 同時に、サンダルを突っかける足ももどかしく、室内から走り降りてくると、早智はドンと妹にぶち当たり、抱きついた。
数秒間、どちらも無言だった。 感動があまりにも大きくて、史麻は何をどう考えたらいいかわからず、ただ姉の暖かい背中を強く抱きしめていた。
フンフーンと歌う声が聞こえた。 女の子が後ろに手を組んで、二人の周りを楽しそうにはねて回っていた。
自分より背の高い妹の胸から顔を起こすと、早智は低く優しい声で紹介した。
「娘のみき。 未来と書いて、みきと読むの」
それから、静かに付け加えた。
「もう仲良しになったのね」
まだうまく口がきけず、史麻は首を縦に振って、白いシャツにピンクのオーバーオールを着た女の子に目を向けた。
家からカジュアルな服装の治臣が現れて、早智の横に並んだ。
「いらっしゃい。 長いこと連絡しなくて悪かった」
「いいえ」
思った以上に声がかすれた。 史麻は小さく咳払いした。
早智が腕を伸ばすと、未来はすぐに走ってきて手を繋いだ。
「史麻ちゃん中へ入って。 葉山さんもすみません、わざわざ」
「こちらこそ無理言って押しかけてきちゃって、申し訳ないです」
珍しく市郎が神妙な面持ちで答えた。
早智がお茶の支度をするのを、史麻も並んで手伝った。 棚の位置や食器の並べ方が梅ケ淵の実家と似ているので、準備がしやすかった。
「これ、お母さんと同じにした?」
史麻が訊くと、早智は小さく笑った。
「家が懐かしくてね。 お父さんお母さんも懐かしかった。 史麻ちゃんにも会いたかった」
「こっちだってだよ! どうして連絡くれなかったの?」
史麻は咳き込んで尋ねた。 ソファーに座って未来を膝に抱きあげていた治臣が、首を反らして二人に顔を向けた。
「うちの母たちのせいなんだ。 ごめん」
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