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丘の家 92
庭は塀ではなく、生垣で仕切られていた。 史麻は市郎と共に車を降り、胸を高鳴らせながら無人の道を進んだ。
ドウダンツツジとツゲの混ぜ垣を左に見て歩いていくと、途中で木々が途切れて、アルミ製の低い裏戸が現れた。
扉の縦格子越しに、庭の中が見えた。 三メートルほど離れて家の壁があり、その前に淡いピンクと白のかたまりがうずくまっている。 はっとして、史麻は足を止め、目を凝らした。
かたまりは、もぞもぞっと立ち上がって、小さな女の子になった。 長い髪を左右の高い位置で結んで、リボンをつけていた。 丸っこい手を振り回して元気に歩きはじめた様子は、とても愛敬がある。 だが、なにげなく振り向いたその顔は、不思議な印象を史麻に与えた。
――早智ちゃんの子……? そうなのかな。 でも似てない。 早智ちゃんははっきりした二重瞼なのに、この子は目が細い。 それに、目の間がちょっと離れすぎてるような…… ――
女の子は、戸の向こうに立っている史麻に気づいた。 そして、一直線にダッシュしてきて、前に立った。
何も言わずに、女の子は口を一杯に開いて笑った。
とたんに、史麻の胸がパッと開けた。 誰に教わるでもなく、この子が姉の子だと本能で悟った。
自然に笑みが浮かんだ。 史麻は格子の手前で膝を折り、女の子と背丈を揃えて、柔らかく話しかけた。
「こんにちは」
すると、女の子は格子の間から手を伸ばして、史麻の袖に触れた。 そして、二度撫でた。 ゆっくりと、慈しむように。
それから、掛け金を持ち上げて、裏木戸を開いた。 高くかわいい声が言った。
「どうぞ」
「ありがとう」
史麻がそう答えて中に入ると、女の子はすぐ彼女の手を取った。 何のためらいもない、自然な動作だった。
女の子に手を引かれて、史麻が歩いていく後ろから、市郎がついていった。 口をまっすぐに結び、やや緊張した面持ちだった。
家の角を曲がり、犬走りを通り過ぎ、表庭に入った。 するとすぐ、白い陽射しに照らされた大きなガラスの一枚戸が開いて、早智が身を乗り出した。
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