表紙

丘の家 67


 門から出たとたんにバタバタと靴音がして、麓郎は取り囲まれてしまった。 まだ警戒態勢はしっかりしていたらしい。
 麓郎が落ち着いて説明するのが聞こえた。
「葉山です。 香月さんに協力してたんです。 聞いてるでしょ?」
「情報屋か?」
「そういうんじゃなくて。 香月さんは俺の兄貴と顔見知りで、ここで偶然会ったんですよ。 それで口止めされて。 説明すると長くなるけど」
「ともかく、誰も出すなと言われてるんでね。 特に男は。 香月に連絡取るから、ちょっとこっちへ」


「あーあ、連れてかれたよ」
 市郎が口の中でぼやいた。

 寒くはなかったが、史麻は小さく身震いした。 別の恐怖がひたひたと迫ってきた。 この屋敷は警察関係者に包囲されている。 中の人間は、どこに隠れていてもやがて一網打尽にされるだろう。
 葉山兄弟は香月という切り札があるが、自分にはない。 形の上では招待客の一人だ。 しかも、菊乃は佐々原の家すべてに憎しみを抱いているらしいから、全力で史麻を事件に巻き込もうとするにちがいない。 史麻が本当は被害者だと知られないために。 自分の罪を少しでも軽くするために!
 揺れる史麻の肩を、市郎の手がそっと押さえた。
「厄介なことになったな。 でもまだ手はある。 きっとあるはずだ。
 君は親戚だから、この家に詳しいだろ? 門と塀以外に、抜け出せる場所はないか? 思い出せ!」

 ごちゃごちゃになった頭を、史麻は懸命に動かした。 広大な敷地を思い浮かべ、シミュレーションして縁をたどった。
 三方の塀はほぼまっすぐ。 越えても見通しが利くから、見張りが一人いれば見つかってしまう。 でも、残りの一方は……
「三津田さん!」
 息だけで、史麻は夢中で囁いた。
「隣りの家なの! 庭と庭が塀で接してて、向こうも広いから、こっそり入ってもわからないはずよ。 木が茂っていて、塀の上で枝がからんでるの。 そっと登ればどこからも見えない」
「よしっ、どっちだ?」
「こっち!」
 二人は、爪先立ちで暗がりの庭を走り出した。








表紙 目次文頭前頁次頁
背景:Fururuca
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送