表紙

丘の家 66


 菊乃の悲鳴は続いていた。 どうやらパニックになってしまったらしい。
「いや、やめて、やめて! 触らないでよ! 弁護士さん呼んで! 誰か助けて〜!」
 我慢強く、男の声が説明した。
「違法賭博行為の参考人として、同行してもらいます。 現行犯だから、逃げようとすると本当にワッパかけるよ」
 この声は…… 史麻は頭がぐるぐる回るような気がした。
 すすり泣きながら、再び鉄門の前を通って、菊乃が連行されていった。 その後ろから、福実と山根が並んでゆっくりと歩いていった。
「お前なんであんな都合のいいところに?」
「家が近い。 それと、おかんが地獄耳で、今夜片瀬の家でパーティーやるらしいって聞き込んできて」
「だから張ってたのか? お前の管轄じゃないだろう?」
「この前、香月がうろついてるの見かけたからさ、これは片瀬でなんかあるんだろうなと思って」
「うろつくって……油断も隙もないな」
「偽名で来る時には周りに気をつけなってことだよ。 警察学校でもメンがよくて目立ってたんだからさ。 思わず本名言っちゃいそうになったよ」
「誰に!」
「香月がコナかけてた子。 うちの隣り」
「うわー」
 世にも情けない声で、山根と名乗っていた男が嘆いた。
「香月さん、行きましょう」
 車からせきたてられて、男の足音が速くなった。
「じゃな。 もう家帰れよ」
「もうちょっと見てく」
 福実は面白そうに答えた。


 香月…… さっき葉山兄弟が口にしていた名前だ。 史麻は身じろぎした。 三人が連絡を取り合って、だいぶ前から片瀬の屋敷を見張っていたらしいことに、やっと気付いたのだ。
 車の発進する音がして、裏通りは再び静かになった。
「もう見張りは残ってないかな」
「俺、ちょっと見てくる」
 そう囁いてから、麓郎がするっと身を翻して裏門に近寄った。






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