表紙

丘の家 62


「偉そうなこと言うんじゃないの! ちっぽけな家にぎゅう詰めで住んでる貧乏人のくせに!
 あんたも早智も生意気すぎるわよ! 全部あの女のせい! 早智がいなかったら私だってこんなこと……」
 そこでパッと空気を飲み込むようにして、菊乃はいったん口をつぐんだ。 だが、こらえきれなくなって、再び爆発的に叫んだ。
「あんたもあんた! 少しは協力したらどうよ! それどころか、ぶち壊すようなことばっかりやって!」
「早智ちゃんがどうしたっていうの?」
 史麻も、完全に喧嘩腰で怒鳴り返した。 許せなかった。 なんで違法賭博をたくらむのが姉のせいなんだ!
「ちょっとばかり財産があるからって女王気取りは止めて! 早智ちゃんが大事にされて幸せならともかく、年下のあんたに生意気なんて言われてバカにされてるんなら、妹の私が協力するわけないでしょう! ほんとに空気読めない人ね!
 そこどいて。 もう二度とこんなところに来ないから!」


 カチャッという小さな音がしてノブが動き、広間へ通じるドアが開いた。 部屋にすべりこんできて後ろ手で閉めたのは、トレーダーの横川博道だった。
 向き合った女二人に目をやって、横川は気だるそうに言った。
「何やってるんだい。 菊乃、お前完全に人選まちがえたな」


 史麻の足が強ばった。 すっと体温が下がった気がした。
――仲間だ、この二人。 この男が、賭博の黒幕なんだ!――

 いくらか物悲しげに、横川は史麻を上から下まで眺めた。
「残念だ。 惚れ惚れするいい女なのにな。 でもさ、正義感が強すぎるってのも問題ありだよ。 だからもう、ここから出せなくなった。 チクられたら俺たち困るんだ」


 強ばりは急速に体全部に広がった。 ドアの前には横川が立っている。 そして、外に向いた窓は、菊乃が背中で塞いでいるのだ。
 じりじりと部屋の奥へ後退していきながら、史麻は両手を背後に回して、バッグの中を手探りした。 大声を出しても、外には聞こえない。 なんとか携帯を掴んで、尾口の番号を押さなければ!






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