表紙

丘の家 60


 大きなテーブルは四台で、どれにもドレスアップした男女がたむろしていた。 外国人の姿も何人かあった。 ヨーロッパ系だけでなく、アラブ系の被り物が二人ほど、人垣の中に目立っていた。
 バックにはムーディーな音楽が流れ、間接光の照明が部屋を淡く包んでいる。 高級感をかもし出そうと努力した跡が見受けられた。


 だが、所詮は賭け事の場だ。 無表情にカードを配るディーラーを見守る客の目は、酒と欲でぎらつき、あけすけな嘆声が飛び交っていた。
「あーっ、スカだ!」
「また外したよ。 どっかに仕掛けがあるんじゃないの?」
 とたんに中年のディーラーがルーレットから視線を上げて、凄味のある目で睨んだ。
「そのようなことは一切ございません」
 言葉遣いは丁寧だが、迫力が違った。 軽い気持ちで文句をつけた男性客は、たじたじとなって口をつぐんだ。


「あっちでチップを買おう」
 いそいそと前を行く広田に、史麻は早口で告げた。
「お金なんて持ってきませんでしたから。 こういう集まりだって知らなかったし」
「ほんと?」
 全然信じていない風に、広田は薄く笑った。
「じゃ任せるんだね? やっぱり俺におごってほしいんだ。 いいよ喜んで面倒見ちゃうよ。 その代わり勝ったら元手に色つけてくれよ。 もし負けてスッちゃったら……その時はわかってるよね」
 なんだこの男。 くすぶる怒りで、史麻は目の前が暗くなって来た。
 握られた肘をすっと抜くと、彼女は思い切り冷たい口調で言った。
「うちでは賭け事はしちゃいけない決まりなんです。 親に強く言われてます。 見てるだけにしますから」
「なに赤んぼみたいな寝言言ってるんだ!」
 広田の目にみるみる角が立った。
「会員になったら出資するのが義務だ。 会員証受け取ったろう!」
 めちゃくちゃな言いがかりだ。 史麻は一歩どころか四歩も後ろへ下がって、できるだけきっぱりとした口調で繰り返した。
「ギャラリーでいます。 だめなら帰ります!」
「そうはいかないわよ」
 斜め後ろから、聞き慣れた声が耳にささった。








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