表紙

丘の家 58


「なにそれ?」
 思わず史麻は高い声を立ててしまった。
 尾口は重々しくうなずき、また車をグイと回した。
「なんでもないってことになったんだけどね。 裏庭で花火してたって言うんだ」
「六月に?」
「だよなー。 まだ花火なんて店に出てこない時期だよ」
 胸の鼓動が不規則になってきた。 銃まで登場してくるのか? 史麻は本気で、尾口に引き返してくれと言いたくなった。
「ともかく、夜中にうるさい音立てるなって注意されて、しばらく自粛してたわけ」
「ねえオグちゃん、前にやってた夜のパーティーにお客を乗せてったことある?」
「いや……ああ、一回だけあったな」
 尾口は帽子を触って思い出そうとした。
「行きだけ。 帰りは知らない。 あそこに泊まったのかもな」
「どんな人だった?」
「男と女。 男は中年で、女は若い子。 コレって感じだった」
 運転席で、小指が立った。


 家で夕飯を軽く食べ、ドレスアップした後、尾口のタクシーでまた迎えにきてもらった。
 やがて車は坂道にさしかかった。 史麻は念入りに、尾口と打ち合わせた。
「一時間経っても佐々原が出てこなかったら、受付に行く、と」
「頼むね。 さりげなく言ってね、佐々原史麻さんに頼まれて迎えに来たんですがって」
「普通にだろ? それで、取次ぎしてくれなかったら」
「うん、なんか理由つけて断わってきたら、この番号に電話入れて、事情を話して」
 後ろから渡されたメモを、運転中の尾口はちらっと眺めた。
「誰の?」
「隣りの。 鈴木っていう家なんだけど、娘さんが刑事なの」
「へえ」
 尾口は面白そうな声を出した。


 すぐに片瀬の豪華な門が視野に入ってきた。 門柱の灯りがすべて点けられて、道の向こう側まで昼間のように明るい。 その光の中を、ディナージャケット姿の広田がうろうろ歩き回っているのが見えたので、史麻はゲッとなった。








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