表紙

丘の家 54


 史麻は、いろんな意味でドキッとして加南子を見つめた。
「どこが?」
「うーん、あちこちが」
 軽く酒が入っていたせいもあって、思わず史麻はプッと噴き出してしまった。
「なんかヤラシくない、その言い方?」
 加南子も肩を揺らして笑った。
「いや、さあ、魅力むんむんってとこがね。 弟くんは稀なイケメンだし、お兄ちゃんには謎っぽいカホリがする」
 ふと史麻の顔が真面目になった。 マネージャーをしているだけあって、加南子の人を見る目は鋭い。 初対面でもう、市郎の複雑な影を感じ取っているらしかった。


*〜*〜*〜*


 未明に台風は去り、翌日の木曜日は嘘のような晴天になった。
 そのまま週末まで好天気は続き、仕事も順調に消化した。 食事時になると、史麻はよく山根を思い出して、また誘いがないかなと期待を持ったが、電話はあれきりかかってこなかった。

 そして、日曜日が来た。 結局、普通の勤め人みたいに丸一日休める、という史麻の希望はまた崩れた。 嵐の日にできなかった室内撮影が、午前中に回ってきたのだ。
 根性なしのカメラマン川崎マルコ(男性)は、腰を低くしてスタッフに詫びていた。 極端な低気圧だと頭がしびれて体が動きにくくなるのだそうだ。
 史麻は気分転換がうまいほうなので、淡々と男性モデルとのポーズをこなし、昼前にすべてのスチールを撮り終えた。
 スタッフが嬉しそうに機材を片づけている横から、広告代理店の部長が現れて、史麻に挨拶した。
「こんにちは。 途中から見せてもらったよ。 なかなかいいねえ」
「ありがとうございます」
 史麻は椅子から立って、律儀に挨拶を返した。 すると広田というその部長は、ちょいちょいと手招きしてスタジオの隅に呼び、思いがけないことを言い出した。
「君、片瀬菊乃さんと姻戚関係なんだってね。 今夜呼ばれてるんだが、もちろん君も行くんだろう?」






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