表紙

丘の家 51


 ソファーに戻ってテレビをつけてみると、黄色いレインコートを着たレポーターが、風雨にさらされて金切り声を上げていた。
「台風六号は再び進路を東北東に変え、三浦半島に接近する見込みです。 新潟に中心を置く小型の高気圧に行く手をはばまれて、進路を予想しにくい迷走台風になった模様で……」
「困るなあ」
 外出着のまま、史麻はソファーに崩れこんで頭を抱えた。


 雨は断続的に、降ったり止んだりしていた。 ちょうど雨粒がまばらになってきた頃に、加南子の小型車が前の道に停まり、ドアから紺色の傘が突き出て、ニュッと開いた。
 ほっとして、史麻は急いでロビーに下りていった。 そして、入館用のボタンを押そうとしていた加南子をうまく捕まえた。
「ああ史麻ちゃん! えらい天気になっちゃったね」
「ごめんね、こんなとき迎えに来てもらって」
「へいきよ。 さ、行こう。 五分で取り締まりが来る……って、この天気じゃ、さすがに巡回してないか」
 賑やかに話しながら、二人は時おり強風の吹きつける表通りに出た。


 青梅街道と中野通の交差点あたりで、電話が入った。 小型スピーカーから流れ出た音声を聞いて、史麻と加南子はどちらもげんなりした。
「あー、スタイリストさんの車が雨でスリップして、事故ったんだと。 怪我は軽いらしいけど、今日のところは来れないんだって。 カメラマンもやる気なくしてるし、やっぱ今日は中止にしよう」
 はいはい、そうですか、と電話を切った後、二人は口をそろえて突っ込みを入れた。
「そんならそうと」
「早く決めろよ〜」

 嵐の中とはいえ、突然できた自由時間に、史麻はちょっとうきうきした。 加南子も同じ気持ちだったようで、ここまで来たんだから引き返すより新宿まで突っ走ってしまおうと提案した。
 まだ午後の二時前だが、空は夕暮れのように暗く、街には照明がついていた。 人通りはさすがに少ない。 でも、繁華街の店は通常営業しているところがほとんどのようだった。
「カラオケ行かない? この近くなんだけど」
「いいねえ」
 意気投合して角を曲がろうとしたとき、史麻ははっと目を見張った。
 青磁色の門柱が特徴的なKホテルの玄関から、葉山兄弟が揃って姿を現したのだ。





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