表紙

丘の家 47


 史麻の耳がウサギになった。
 ほんとにピコピコ動いたような気が、自分でもした。
 流れるように階段を下りていくと、ファックス付き電話のベージュ色をした受話器が、斜めに立てかけてあった。
 すぐ手に取って応答した。
「史麻です。 電話代わりました」
 やや金属的になった山根の声が、はきはきと響いてきた。
「急にかけてすみません。 この町で佐々原さんてお宅だけなんですね」
「え? はあ」
 電話帳で調べたのかもしれない。 それにしても何の用だろう。
「後で広間に戻ったら、もう帰ったと聞いたもんで。 あの」
 ちょっと言いにくそうに、山根は言葉を切った。
「はい?」
「ええっとですね、片瀬さんは来週の日曜にまた集まりを開くらしいんですが、誘われました?」
「いいえ、別に」
 別れ際に見せた菊乃の冷たい眼を思い出しながら、史麻は答えた。
「そうですか、よかった」
 山根がいかにも安心した様子になったので、史麻は驚いた。
「なにか……?」
「いや。 あんまりあそことは関わらないほうがいいと思うんですよ、なんとなく」
 言葉を濁した後、山根は更に驚くようなことを言った。
「あの、今日これから誰かと約束ありますか?」

 誘ってるの?――とたんに史麻は楽しくなった。 山根は麓郎ほど美男ではないが、それでも並み以上の容姿だし、何よりも態度がさっぱりしていて感じがいい。 彼とは会話が弾みそうな予感があった。
「ないです。 うちで晩御飯食べて寝るだけ」
「じゃあ、ええと、晩飯一緒にどうですか?」
 やっぱり! 史麻の顔がほころんだ。
「あ、素敵ですね」
「素敵ですか!」
 少年のように、電話の向こうで声が弾んだ。






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