表紙

丘の家 44


 減速して、二人の前ですっと停まったタクシーの窓から、尾口の意外そうな顔が斜めに見えた。
「あ…… お連れさん?」
「この人を家まで送って、それから駅まで行ってください」
 麓郎がさりげなく言って、史麻が降りやすいよう、先に乗り込んだ。

 尾口はブスッとした顔で、前を向いたまま運転していた。 どうも話しかけにくい。 史麻は自然と、麓郎とぽつぽつしゃべることになった。
「菊乃ちゃんの集まりには、いつから出てるんですか?」
「ああ、まだ二回目」
 麓郎も新顔なんだ。 史麻は少し元気が出た。
「一回目のときも今日と同じ感じ?」
「うん、ゲームやって音楽やって、気の合ったグループで酒飲んだり」
「お見合いパーティーだとか言われてるけど、カップルはできてるのかな」
「どうだろう。 よく知らない。 まあ、合コンよりは工夫してるかも」
「会費取らないでしょう? いくら菊乃ちゃんが金持ちでも、費用が大変だと思うんだけど」
「仕事の都合もあるんじゃないの? 不動産と経営コンサルタントの会社やってるんだよね、あそこ」
「ええ」
「だから、口コミでお客さん集めるとか」
 その口調がどこか気になって、史麻はちらっと麓郎の顔に目を走らせた。 平坦な言い方だった。 本当には信じていないような。

 その動作に応じるように、麓郎は首を回して、真正面から史麻に視線を当てた。 史麻はぎょっとして、思わず目をしばたたかせ、そらしてしまった。 こんなにストレートに見つめてくる男性は、日本では珍しい。 しかもその視線には、小学生のような無邪気さが感じられた。
「君って気安く声かけられないよね」
 ええ?
 不意にそんなことを言われて、史麻は固くなってしまった。
「高ビーに見えますか?」
「ちげーよ」
 麓郎は弾けるような笑顔になった。
「きちんとした感じなの。 筋が通ってるってこと」
 それは、たぶん彼なりの褒め言葉なのだった。






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