表紙

丘の家 41


「消える?」
 横川が不思議そうに訊き返した。
「ゲーム途中で諦めちゃうってこと?」
「いや……」
 新条はちょっと焦った様子で、忙しく言葉を継いだ。
「このパーティーはさ、外国風で、いつ来ても帰ってもいいからさ」
 何も飲んでいないと間が持たないため、ライトビールをついでもらった史麻は、グラスを手に持ったまま、これからのことを考えた。
――客が早く打ち解けるためにゲームやってるんだろうけど、途中でどんどん抜けていくようじゃしょうがないな。 菊乃ちゃんが見つかって賞品もらったら、さっさと帰ろう。 そうだ、携帯で尾口くん呼ばなくちゃ――
 自分は友達のタクシーをハイヤーに使えるからいいが、この連中、昼間からこんなに飲んでどうするんだろう、と、史麻はちらっと周囲を見た。 新条はすっかり出来上がって赤い顔をしているし、横川はいつも以上に陽気になって大声を上げていた。

 バーテンの橋口が出ていってから十五分以上が経過して、ようやく菊乃と二人連れで戻ってきた。
 史麻たちがバーカウンターにたかっておしゃべりしているのを見て、菊乃は湯気が立ちそうな顔をしたが、仕方なく新条に近づいて、肩をポンと叩いた。
「お待ち遠さま。 この方たちは、ええと、ジャックの組ね」
「そのようで」
 新条が答えた。 酔って声が半オクターブ高くなっている。 菊乃は庭に面したガラス戸に目をやって呟いた。
「他の人たちは、まだ?」
「そういえば、誰も帰ってこないね。 ヒントがなかなか解けないんだ」
 横川が意地悪そうに言った。 上体を揺らしながら、寺島あきが応じた。
「私たちゴールしちゃったんだから、やったー! とか何とか宣言したほうがよかったんじゃない? そしたら他のグループは諦めて帰ってきたでしょ?」
「こんなにちゃんとセットしたゲームを五分で終わらせるの、気の毒じゃないか」
 史麻は苦笑しそうになって下を向いた。 どうやら自分が混じったせいで、菊乃の予定は次々と崩れていくようだ。 表面は気取っているが、菊乃が内心で噴火しそうになっているのは間違いなかった。
 左腕にはめたきゃしゃなドレスウォッチを眺めてから、胸を反らして、菊乃は張りのある声を出した。
「開始から二十三分経ったわ。 もうそろそろいいわね。 悦ちゃんたち控え室にいるのかしら?」
 橋口がのんびり答えた。
「ええ、ヘルプの子たちはさっきキッチンで遊んでましたよ」
「そう、じゃ彼女たちに残りのグループを探してもらって呼び戻しましょう。 表彰式はそれからね」
 菊乃はさっそうと去っていった。 カツカツというヒールの鋭い音が、苛立ちをわずかに表していた。






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