表紙

丘の家 39


 受付の近くに置かれた青磁の大きな壷に、オレンジ色と白の大きなダリアが、山盛りに活けてあった。 その壷の下から青い封筒がほんのちょっとはみ出ているのを、寺島あきが目ざとく発見した。
「あれ、あれよ!」
「ほんとだ」
 横川が壷を斜めにして封筒を引っ張り出し、中身を読んだ。
「ベツレヘムの星は白く光る。 何だこれ?」
 星、星……。 史麻はぼんやりと記憶をたどった。 もう何年も前になるが、片瀬夫人が自慢していた。 広い中庭に星型の花壇を作って、クリスマスには周囲に電飾をめぐらすと、屋上から見てとてもゴージャスなんだそうだ。
「このグループのヒントは花つながりなのね、きっと」
 史麻がふと口にしたのを、横川が素早く耳にとめた。
「花? どうしてそう思うの?」
「ああ……あっちの中庭に、星の形をした花壇があるから」
「それだよ、きっと!」
 佐野が大声を発して、早くも駆け出そうとしたが、すぐブレーキをかけて史麻に訊いた。
「中庭って、どこ?」

 史麻を除く残りの三人は、まだこの家に来るようになって日が浅いらしく、どこに何があるかあまり知らなかった。 自然、史麻が案内役みたいなことになって、三人を花壇へ連れて行った。
 史麻の勘は正しかったようだ。 差し渡し十メートルほどある大きな花壇には、一面に白い花が咲いていた。 中心部は薔薇で、周りの五つの三角形にはペチュニアがそよいでいた。
 横川は、大満足で両手をこすり合わせた。
「やったね。 さてと、ヒントはどこかな?」
「あの薔薇の支柱。 ほら」
 佐野が指差した。 確かに、細い竹を組み合わせて作った支柱の一つに、青い封筒が差し込まれているのが見えた。

 今度のヒントは、『影は語る』というものだった。 これも、片瀬邸に詳しい史麻がすぐ気付いた。
「温室のそばに日時計があるけど」
「いいよいいよ! 佐々原さんと同じ組で、俺たちついてたな」
 すっかり勢いに乗って、横川は仲間をせきたてるようにして温室に向かった。

 丸い大理石の日時計に近づいていくと、温室の中に別のグループがいた。 広い屋敷なので、これまでお互いに会わなかったため、どちらもはしゃいで手を振ったり、呼びかけあったりした。
「よう、船村たち幾つ目のヒント?」
「まだ一つ目だよ。 ここのどこかにあるはずなんだが、広すぎて」
「巨大だよな、片瀬さんちの温室は」
 片瀬夫人は、庭を公園のように年中美しくしておきたくて、専門の園芸員を雇って、花を苗から作らせ、季節ごとに大量の植え替えをやっているのだった。





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