表紙

丘の家 35


 山根さん。
 心の中で繰り返してから、史麻も名乗った。
「佐々原です。 ここのパーティーは初めてなんですけど、今、中で何やってます?」
「ああ、立ち話したりビリヤードやったり、いろいろですよ。 二時ごろまでが集合時間で、本格的に遊ぶのはそれから」
「遊ぶって?」
「この前はゲームしてましたよ。 いわゆるパーティーゲーム。 集まった人数によって変えてるみたいで。 例えば王様ゲームとか」
 史麻は胃もたれがしてきた。 昔からゲーム類は得意ではない。 一応そつなくやるのだが、熱中できないのだ。 周りが盛り上がれば盛り上がるほど醒めてしまうという、波に乗れない性格だった。
 目ざとく史麻の失望を見てとったらしく、山根は更に詳しく説明した。
「うざいかもしれないけど、新しい客を雰囲気にとけこませるためにやってるんでしょう。 終わったらディスクジョッキーが登場して、クラブみたいになるんです。 わりと面白いですよ」
「はあ」
 気の抜けた声で、史麻は答えた。 レコード盤を手で操作するDJは、ゲームより嫌いだ。 大音量のトランスは、苦手中の苦手だった。
 ますます落ち込んだ史麻を、山根は気の毒そうに見た。
「もっと違うことすると思ってたんですか?」
 史麻は首を振った。
「何も考えてませんでした。 義理で来ただけだから」
「なるほど」
 ちょっと考えて、山根は逃げ場を思いついた。
「中庭に温室があったから、うるさいと思ったら花を見に行けばいいですよ。 カップルはよく行ってるみたいで」
 そこで彼は慌てて付け加えた。
「僕は野心持ってませんよ。 念のため」
 史麻は微笑したくなった。 実際にはしなかったが。 この青年は気さくなだけでなく、そこはかとないユーモアの持ち主だった。
 広間のドアが開いて、シャーベットブルーの服を着た菊乃が顔を覗かせた。 そして、向き合っている二人を見つけると、すぐに近寄ってきて山根に笑顔を向けた後、史麻の腕を取った。
「さ、早く早く。 紹介したい人がいるの」
「引っ張らないでよ」
 小声で言ったものの、菊乃は聞く耳持たず、ぐいぐいと意外な力強さで、史麻を連行していった。





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