表紙

丘の家 32


 一息ついて、葉山は続けた。
「客寄せに使おうとしてるんだ、たぶん。 あそこのパーティーも常連が決まっちゃって、少しだれてきたからな」
 史麻は少し安心した。 でも、まだ疑問は残った。
「菊乃ちゃん暇なのは知ってるけど、毎週のようにパーティー開くのは大変でしょうね」
「婿さん探しだと、周りは言ってる。 招待されるのは、割といい家の子が多いから」
「お見合いパーティーか」
それならまあ……。 用心のため、史麻は訊いてみた。
「今度の土曜、葉山さん行きます?」
「俺?」
 葉山は愉快そうに声を上げた。
「俺って素敵な婿さん候補か? そうじゃないだろう。 弟は呼ばれてるが」

 半分がっかりして、半分安心した。 葉山本人が行かないのは残念だ。 しかし、葉山の弟の麓郎にも、そっけないがどこか信頼のおける雰囲気があった。
「よかった。 知ってる人がいるとくつろげるわ」
「おや、行くつもり?」
「ええ」
 声が低くなった。 本当は出席したくない。 でも、しがらみがあるから……。
 葉山の口調が、少し変わった。 真剣味を帯びた。
「あまり勧められないな。 どうしても行くんなら、これに注意しなよ。 まず、酔っ払わないこと。 それに、ホイホイ人についていかないこと」
 まるで子ども扱いだ。 史麻はちょっとむっとした。
「ホイホイ行くように見えます?」
「見えない」
 あっさりと、葉山は前言を撤回した。
「見えないけどさ、なんか場の空気ってものがあるじゃない。 気をつけな。 できれば麓郎と一緒にいるといいよ」
 自分でもそうしようと思っていた。 史麻は声を和らげて、礼を言った。
「ありがとう。 すみません時間取らせて」
「かけてくれてよかったよ」
 葉山は意外なことを口にした。
「史麻さんが初めて行くからと麓郎にも言っとく。 じゃあな」
 電話が切れた。 なんだか物足りない気持ちで、史麻は携帯をテーブルに置いた。
 葉山は親切だった。 それに、頼もしかった。 甘えてはいけないと思いながらも、史麻は彼の経験と人柄に好意を感じるようになってきていた。





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