表紙

丘の家 20


 仕事関係だと思わせておいたから、薄暗くなって同じ車が迎えに来ても、母は驚かなかった。
 プリントのワンピースにレースのボレロを重ねて、史麻はいそいそと葉山の車に乗った。 隣家の窓のカーテンが揺れ、人影が映ったが、気にしないことにした。

 暑い夏の名残が、まだ空気に残っていた。 車が呼び起こす涼しい風が、念入りにメイクした頬に心地よい。
 今夜は帽子を被らず、肩まで伸ばした髪を頭の上でアップにした。 それが珍しいらしく、葉山は運転しながらちらちらと史麻の横顔を見た。
「なんだか別人みたいだ」
「帽子がないから?」
「それもある」
「他には?」
 一瞬間を置いて、葉山は言った。
「明るい」

 ちょっと白けて、史麻は座席に座りなおした。
「そんなに暗かった?」
「うーん、暗いというか、用心深かったな」
「普通そうでしょう。 初対面の人に、そんなになれなれしくしないから」
「まあそうだけど」
 交差点で止まった。 葉山は左右を眺め、顎を掻いた。
「夜だと違うふうに見えるな。 どっちへ曲がるんだっけ?」
「左。 右のほうの五軒目」
「よし」
 信号が変わるとすぐ、葉山は車を回して左道に入った。


 アヤは二人を見て喜んだ。
「恭子の店でガソリン買ったって聞いたから、うちにも来てくれてよかった!」
 店は半分くらいの入りだった。 町に若者が少ないから苦戦しているらしい。 それでも、縦長の店の奥で、作業服姿の四人組が賑やかに騒いでいた。

 史麻はお好みセットを、葉山は牛タンとビビンバを頼んだ。 炭火コンロで肉が焼けるのを待っていると、葉山のほうから先に切り出した。
「これってデートだといいんだけど、違うよな」
 いつもの軽い口調だった。 それでも、史麻は背中に緊張が走るのを感じた。





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