表紙

丘の家 18


 かえで通りを走ってきて広場に入ったときから気付いていたらしく、葉山は淡々とした顔つきで、薄く色のついたサングラスを額に押し上げ、口元をほころばせた。
「君さ、ほんとにモデルやってるんだって?」
 菊乃が話したのだろう。 史麻はややぎくしゃくと頷いた。 すると葉山は続けて訊いた。
「もう東京へ帰るのかい?」
「ううん、明日まで休み」
「へえ」
 二人のやりとりを助手席で聞いていた美男の若者は、無表情のまま座席にもたれて、いかにも傍観者という態度を取っていた。 この人、私に性格似てるかもしれない、と、史麻はその様子を見て、ちょっと思った。
 ただ、今日の史麻は傍観者でいるわけにはいかなかった。 どうしても葉山に訊きたいことがあるのだ。 勇気を出して、史麻はまだ動く気配のない車に近づいていった。
「あの」
「どうした? 家まで乗せてってあげようか? どうせ通り道だし」
「え? うん……」
 連れがいるから、本題に入れなかった。 史麻は、遠慮がちに後ろへ乗り、そっと坐った。

 助手席のイケメンは、何も反応しなかった。 史麻に話しかけることもない。 淡々とそっけないほどの口調で、運転席の葉山と会話を交わしていた。
「大野が電話くれって」
「向こうからかけりゃいいじゃんか」
「起きてるのが真夜中だから、兄さんの寝てる時間にかけたら悪いと思ってんだろ」
「逆にうざいよ。 その気配りは」
 兄さん? この二人は兄弟なのか。 まったく似ていない二人を、史麻は背後から見比べた。



 史麻の家には、あっという間に着いてしまった。 もちろん弟くんは乗ったままだ。 何も訊けなくて困った史麻は、口の中で礼を言って降りた後、勇気を奮って尋ねた。
「ええと、片瀬の家に行くの?」
「うん、そうだよ」
 葉山は軽く答えた。 その軽さに、史麻はすかさず便乗した。
「二度も送ってもらって悪いから、今夜か明日、食事おごらせてくれない?」




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