表紙

丘の家 12


 皆が席について食べ始めた頃、ようやく尾口が学校にやってきた。 あんなにカプセル発掘を楽しみにしていたわりには、到着が遅い。 史麻が理由を訊くと、照れくさそうに答えた。
「DLまで直通で行ってくれって親子連れがいてさ、万札バリバリ」
「やったね! この辺じゃほとんどいないもんね、そんな客」
「そうなんだよ。 逃がすわけいかないじゃん」
「その決断、当たりだったよ。 まだカプセル見つかってない」
「ほんとか?」
「そうなの。 先生の記憶があやふやで」
「みんなも同じじゃない? 誰もはっきりしたことわからないみたいよ」
 恭子たちと尾口のしゃべりを聞きながら、史麻はまた自分の考えに入り込み、周りを忘れた。
――菊乃ちゃんを見ると苛つく。 それに、菊乃ちゃんも私を嫌ってる。 子供のころからそうだった。 いつも別グループで、ほとんど口をきいたことがなかった――
 菊乃は自分の仲間を金持ち娘で固めていた。 その周辺には、お嬢様たちの使い走りをするゴマすり男子たちが、衛星のように後をついてまわっていた。
 それに比べて、史麻の仲良しはバラエティーに富んでいた。 彼女の家はサラリーマンだが、友達には商店の子が多く、買い物に行くと店主が、息子の友達だからと値段をまけてくれたりした。 姉の早智が気さくで大らかだったから、自然に交際範囲が広がったのかもしれない。
――早智ちゃん……会いたいな。 たくさんいる早智ちゃんの友達も、みんなそう願ってると思う。 なのに黙って消えちゃって……
 早智ちゃん、水くさいよ。 もしかして、菊乃なんかに負けたの?――
 そう思うのが、何より悔しかった。 あんな身勝手な自己チュー娘にいびり出されたのかもしれないと、考えるだけで。

 寿司を食べ終わって満腹になると、誰も暑い太陽の下で穴掘りしようなどという気を失くしてしまった。
 結局、久しぶりに集まっただけでよしという結論になり、だらだらと一時間ほど話して、お開きにした。 本気で残念がっていたのは、尾口ら二、三人だけだった。


 まだ影が短い二時半過ぎ、バス停に五人ほどで固まっていると、丘のほうからオープンカーが走ってくるのが見えた。
 向こうもこっちにすぐ気付いて、なめらかに車を寄せてきた。 そして、アヤと恭子に笑顔を見せ、ドアを開けた。
「日曜の午後じゃ、バスはなかなか来ないだろう。 送ってってあげるよ」
 えー、いいのかな、そんなにしてもらって、と、二人が嬉しそうにごちゃごちゃ言っているところへ、史麻がそっけなく口を入れた。
「菊乃ちゃん専属かと思った」
「俺は誰の専属でもないよ」
 葉山はすぐに言い返した。 余裕のある態度が、史麻には腹の中で笑っているように感じられた。
「俺はフリー。 ばっちこいだよ」




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