表紙

丘の家 11


 葉山はそれまで、史麻たちの傍にいた。
 なんと、彼は見かけによらず、聞き上手だった。 牛タンの質からディーゼル車の性能まで、いろんなことに詳しい男で、どんな話題になってもそれなりの会話が成り立つため、すっかりアヤたちと打ち解けて、気楽にタメ口を交わしていた。
「昼はオムライスがよかった? いや、別にダサくないよ。 お台場のオープンテラスで一番人気だってよ。 海老の入ったやつが」
「あ、私食べたことある! 千円しないんだよね、あれ」
「葉山さん!」
 恭子と盛り上がっている葉山を見て、菊乃の目に角が立った。 そして、向きを変えてつかつかと歩いてくるなり、葉山の腕を取って強引に引っ張っていってしまった。

「変わらないねー」
 急に割り込まれた恭子が、あきれて呟いた。 アヤが皮肉っぽい笑いを頬に浮かべて、後を続けた。
「あの子は一生ああだわ。 プリンセス・菊乃」
「プリンセスがクイーンになるぐらいか」
 恭子の口が、いくらか尖った。
「あんな子にはもったいないね」
「誰が?」
「んー、葉山さん」
 友達二人の会話を黙って聞きながら、史麻は目を伏せた。
 心の隅で、思わず共感してしまったのだ。

 葉山という男の第一印象はひどかった。 だが、こうやって半時間ほど話してみると、というか、友達と話しているのを聞いていると、だいぶ受け止め方が違ってきた。
――気さくだけど、ベタついてない。 むしろ、さばさばしてる――
 大いにベタつく菊乃のどこがよくて、車で送ったりしてるんだろう、と、史麻は首をひねった。


 昼食の準備が整って、会場にがやがやと人が入りはじめた。 そこで、不手際が露わになった。 予想よりたくさん来たらしく、スリッパが足りないということがわかったのだ。
 史麻は、ビニールカバーの予備をバッグに入れていたことを思い出して、アヤと恭子に渡した。 二人は感謝して受け取り、盛んに感心した。
「用意がいいねえ、史麻ちゃんは」
「昔からそうだった。 ロッカーに置き傘二本入れてて、夕立の日に貸してくれたことあったわ。
 そうだ、あの傘まだ返してない!」
「いいよ、そんな昔のこと」
 史麻は苦笑するしかなかった。




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