表紙

丘の家 10


 縦にだらだら伸び、三つぐらいの塊になって校庭を横切っていた同級生たちは、ずんぐりした棕櫚の木の横で右に曲がり、ツツジの丸い植え込みの陰に入った。
 そこは、裏塀と低木に挟まれた細い空間になっていた。 細いといっても、長さは六十メートルぐらいある。 元担任は、埋めたときの目印を思い出せず、顎を撫でながらなかなか苦労していた。
「ええと、黒っぽいベンチがどこかにあったんだけどな」
「たしか、あの辺」
 元学級委員の滝田〔たきた〕が、灰色の塀に覆い被さるように垂れている山吹を指差した。
 元担任の森は、疑い深く首を振った。
「あれか? いや、あんなに大きな茂みはなかったぞ」
「先生、十年経つんですよ。 十年! ひとむかし前なんだから」
「でもな……まあ、いい。 あそこから計ろう。 ええと、北に五歩、西に三歩と」
「北に三歩、西に五歩じゃなかったっけ?」
 背の高い滝田の横から覗きこんだアヤが、首をひねって呟いた。

 森先生は、軽く考えていたらしい。 浅く埋めたのだから、すぐ発見できるとタカをくくっていた。
 ところが、滝田と二人で半時間シャベルを使っても、出てくるのは石ころばかりだった。 じれた同級生の男子がもう二人、車のトランクから折り畳み式スコップを出してきて、発掘に加わった。

 結局、一時間近く探してみたが、タイムカプセルは見つからなかった。 これ以上堀り手が疲れたらクラス会が盛り上がらない、という結論になり、みんな中途半端な気持ちのまま、作業を中断することとなった。


 会場は、一階の社会科教室だった。 仕出屋が入って、忙しくスチロールの器に入った寿司盛り合わせを並べている。 窓からその様子をちらっと見た菊乃は、うんざりした態度を隠さずに、後ろを振り返った。
「また丸勝のお寿司? わざわざ食べるほどのものじゃないわね。 タイムカプセルは見つからないし、もう足が疲れちゃった。
 ねえ、葉山さん、うちまで送って」
 声が鼻に抜けた。 菊乃はこの世間ずれした男に本気出しているのだろうか。 それとも、大人には無意識に甘える、という昔からの癖を見せているだけなのか。 どちらとも取れる思わせぶりな仕草に、史麻はもやもやした反発を覚えた。

 


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