表紙

丘の家 8


 その男は、適度な日焼け肌をしていた。 目は大きめで、表情豊かだ。 派手な車といい、無造作に決めたカーキ色のシャツといい、遊び人の匂いがぷんぷんしていたが、下品ではなかった。
 菊乃は、史麻よりもずっとファッションモデル風の歩き方で、直線をたどるようにして元同級生たちに近づいてきた。
「あら、結構来てるわね。 十人ぐらいかと思ってたけど」
「同窓会よりこっちの方が面白いもの。 昔何埋めたかほとんど忘れちゃってるから、宝捜しみたいな気分」
 ガソリンスタンド勤めの角恭子〔すみ きょうこ〕が返事した。
 史麻は、一応菊乃と目を合わせたが、特に反応しなかった。 すると、菊乃の方から挑戦してきた。
「久しぶりねえ。 東京で派手にやってて、こんな田舎町にはもう戻ってこないんじゃないかと思った」
「私は地味に仕事してるし、ここは故郷でただの田舎町じゃないわ」
 大人げないと思いながらも、史麻はきっちり反論しておいた。 菊乃が相手だと、自然体でいるのはなかなか難しかった。
 そこへ、もう一台ワンボックスカーが到着して、昔の担任が降りてきた。
「いやあ、お待たせ。 スコップ忘れて取りに帰ったんだ」
 十年前と変わらぬ声だった。 髪にはだいぶ白髪が混じっていたが。
 あちこちに散らばっていたグループが、先生の回りに三々五々集まってきた。 笑いさざめきながら校庭の奥へ進む仲間の後をついて、史麻はのんびりと歩いた。
 菊乃はすぐに先生の横へ張り付き、世間話を始めていた。 その様子を後ろから見て、恭子が意味ありげに史麻に目くばせした。
「変わんないね、彼女」
「睫毛が人より長いからってさ、昔は教卓の前にむりやり席取って、こう下から色っぽく見上げて」
 焼肉屋の跡継ぎ娘、斎藤アヤが、ポーズを取った。
「パチパチッて瞬きするの。 あれ何で覚えたのかね? 外国ドラマ?」
「陰で、セッサミーて言われてたの知ってた? ゴマすりのゴマってことだけど」
 学校に来て初めて、史麻の顔がほころんだ。

 横から不意に、覚えのある声がした。
「こんちは、佐々原シマ子さん」

 


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