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見えた黒幕
テオフィルは学校友達のつてを使い、検事の同級生からいろいろ聞き込んだ。
リリことアンリエット・オードランとその父は、金を湯水のように使って証人を見つけたらしい。 だが、横槍が入って使えなくなったという。
「腹が立つから言いたくはないんだが、警察上層部に腐りきった実力者がいる。 ルモニエ総監という男だ。
容疑者の婚約者も心得ていて、そいつに一財産を渡して買収し返そうとしたという秘密情報が届いた。
しかし、奴はワイロを取っただけで動かなかった。 金を突っ返すならともかく、いくら悪党でも仁義がなさすぎるだろう?
つまり、今回ばかりはやり過ぎた。 パリのブルジョワ層の力を甘く見すぎている。 商工会から突き上げが来たんで、今シャミナード長官に調べさせているところだ。 あと三ヶ月あれば、そのルモニエという総監に手錠をかけるか、少なくとも組織から追放させられると思うよ」
「三ヶ月じゃ遅すぎる。 今すぐ失脚させられないか?」
テオフィルがじりじりして問い詰めても、ベリリューという若手検事は首を振るばかりだった。
「奴の汚職は政界に深く根を張っているからな。 下手な動きをすると、こっちが濡れ衣を着せられて放り出される。 急ぎたくても急げないんだ」
テオフィルはすぐに方針を変えた。
敵の一角がわかったのだ。 そこに付け入って崩すしかない。
ベリリューから、パリで一番腕利きの探偵だというボランを紹介してもらい、ひたすらルモニエ総監を尾行させた。 そして間もなく、総監が人目につかないところで、厚いヴェールをかけた婦人と密会しているのを知った。
その晩、屋敷に戻ってきたテオフィルは、喜んで迎えに出てきたミレイユの肩を抱き、小居間に連れていって、カウチに座らせた。
「君は確か、聖フランシーヌ尼僧院の付属女子学院を出たんだったね?」
ミレイユはいぶかしげに目を上げた。
「ええ。 リリもそこの出身よ」
「同じ時期に、ダロワ子爵夫人も入学していなかったかい?」
結婚後の名前なので、一瞬ぴんと来なかった。
「ダロワ…… 名前は?」
「ドリアーヌだ」
ミレイユの表情が強ばった。 顎をつんとそらした冷たい美少女の顔が、意識の奥をかすめ過ぎた。
「ああ、あの人」
「好きじゃなかったようだな」
「子爵と結婚したのね。 貴族夫人になる夢を叶えたんだわ」
「気取り屋かい?」
ミレイユはためらった。 ドリアーヌについては、嫌な思い出しかない。
「なんというか、目上の人に気に入られたいタイプ。 年下や弱い者には冷たいの」
「ほう」
考え込みながら、テオフィルは顎を撫でた。
「念願の貴族になれたのに、なぜそういう女性が平民の警察総監と密会するのか」
「えっ?」
ミレイユは心底驚いた。
「あの計算高い人が?」
「少なくとも総監のほうは夢中だ。 いつもはケチなくせに、宝石をせっせと買って贈っているらしい」
「まさか……」
妻が言いかけて止めたことを、テオフィルが引き継いだ。
「彼女に利用されてるんじゃないかな。 警察総監を使ってやることといえば」
「人を罪に落とすこと……?」
悲鳴に近い声を上げて、ミレイユは夫の腕を掴んだ。
「そういえばドリアーヌは、皆に好かれるリリを嫌っていたわ。 男の子に迎えに来てもらうなんていやらしいって、いつもけなしていた。
でも一回、ピエロが置き忘れた帽子を胸に抱いていたことがあるの。 他の子にからかわれて、中庭の植え込みに投げ捨てたけど、後で傍を通ったら無くなっていた。
あのときの目付きは、どこか妙だったわ。 とりつかれたような感じで」
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