表紙

 -89- 遺体は男女




 最初リュカは、ジェレミーが枯れ枝でも見間違ったのだろうと思い、まじめに相手しなかった。
 だが、ジェレミーが泣きつかんばかりに言い張るので、まずマッツを本宅に送ってから、文句を言いつつジェレミーと共に林へ向かった。


 十五分ほどして、あたふたと屋敷の裏口に駆け込むリュカの姿が見られた。 そして間もなく一階が騒がしくなり、家令のヴィセンテが急いで二階に上がって、長女のヴァレリーと遊んでいたミレイユの元へ向かった。
「奥様!」
 広い遊戯室で腕に末っ子のテランスを抱き、ヴァレリーにボールを転がしてやりながらソファーでくつろいでいたミレイユは、ヴィセンテが血相変えて入ってきたので、驚いて目を見張った。
「どうしました?」
「申し訳ありません、勝手に参りまして。 でも重大なことが起きましたので」
 たちまちミレイユは緊張した。 三年前の恐ろしい夏の日々が脳裏によみがえり、座っていても脚が震えた。
「何がですか? マッツになにか? さっき見たら、裏庭で元気にあそんでいたけれど」
「いえ、あの、坊ちゃまご自身には何も。 ただ、マッツ坊ちゃまとジェレミーが大変なものを見つけてしまいまして」
 ヴィセンテが回りくどいので、ミレイユはますます不安になった。
「見つけた?」
「はい、人骨でございます」
 えっ? 人の骨?
 ミレイユは反射的に立ち上がった。
「また人が殺されたんですか?」
「さあ」
 具合悪そうにヴィセンテは身じろぎし、ようやく事態を説明しはじめた。
「トネール川のこちら岸でも、西のあたりは原生林に近くて、ほとんど人は踏み込まないんでございます。 そこにマッツ坊ちゃまが馬でお入りになって、骨と知らずに踏んでしまわれたとか」
「え? でもあの子、下で普通に遊んでいましたけど」
「ジェレミーが気をきかせて、骨だとお教えしなかったそうです。 だから坊ちゃまは怖がらずにしてらっしゃいます」
 よかった。
 ミレイユはひとまず胸を撫でおろした。
「伯爵は?」
「さきほど借地人の家巡りに行かれました。 それでまず奥様にお知らせしなければと思いまして」
 その言葉を聞いて、ミレイユは嬉しくなった。 初めは余所者のお嬢さん扱いだったのに、今では夫の次に頼りにされている。 私はどうやら、この土地の人間になれたようだ。


 それにしても、やはり人骨は怖い。 発見物を見に行くのはテオフィルが帰ってきてからにして、ミレイユはとりあえず下に降りて、ジェレミーの話を聞くことにした。
 その頃には、ジェレミーはだいぶ落ち着いていて、リュカと一緒に詳しく説明することができた。
「落ち葉がくっついて黒くなってましたが、ゴミをどけるときれいな白い骨でしたよ。 ありゃ相当長くあそこにあったようです」
 リュカがそう言うと、ジェレミーも大きく頷いて、後を続けた。
「ぼろぼろになった服の残りが脚に巻きついてました。 一人は女で、もう一人は男ですね、あれは」
「まあ、二体も」
 ミレイユは息を呑んだ。







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