表紙

 -83- めでたい話




 悪だくみが人生の楽しみのようなジュスタンを、このまま解放するのは危うい。 テオフィルはよく考えて、まず共犯者のロジェ・バルゲリを別室に連れて行き、ジュスタンの計画をすべて話させた。
 そのとき、テオフィルはミレイユに励まされて、昔の典型的な専制君主のような態度を取ってみた。
「さっきのあなた、すばらしかったわ! いい人たちには優しくて、悪人には容赦ないのね。 叔父のおびえた顔を見た? 本当に胸がスッとしたわ!」
 テオフィルは真面目だが、ユーモアのわかる気質だった。 だから妻の惜しみない褒め言葉に乗って、バルゲリをちょっと脅してみようと思いついた。
 驚いたことに、その作戦は大成功を収めた。 先祖からの大貴族の家柄だから、父や祖父の傲慢さを見て育ったのが、この場合よかったのかもしれない。
 テオフィルは簡単にバルゲリを怯えさせることができ、自白書にも素直にサインさせた。


 これで、いつでもジュスタンを破滅させられる証拠が揃った。 テオフィルはバルゲリに旅費を恵んでやって、出来るだけ遠くへ行くように助言した。
「おまえはこれから、一生デフォルジュの目の上のたんこぶだ。 殺されたくないなら、うまく姿を隠せ」
「はい、お情けありがとうございます。 それじゃ旦那」
 判事に突き出されなかったのでホッとして、バルゲリはぺこぺこお辞儀をしながら、裏庭から一目散に逃げ去った。 後で村の雑貨屋が目撃したところでは、顔を見知っている下働きマリーと連れ立って、乗り合い馬車で去っていったそうだ。 
 これで、屋敷の情報を悪人たちに流していたのがマリーだったと明らかになった。

 後は主犯の始末だ。 いちおう金も権力もあるジュスタン・デフォルジュを、どう追い払ったらいいか迷っていると、マリオットが自ら、ジュスタンを見張って故郷に戻るのを見届けると名乗り出た。
「レオンとミシェルをお貸しください。 二人とも腕っぷしが強く頼りになりますから」
「それはありがたい。 君にはいろいろ世話になるな」
「恐れ入ります。 これからもずっとお傍で仕事をしていきたいと願っていますので」
 張り切ってそう答えるマリオットの顔が、緊張で赤らんだ。
「それで、こんな際に何ですが、無事にあの男を送り届けて戻ってきた後で、あの、妻を迎えたいと思いまして」
 彼と向かい合っていたテオフィルとミレイユは、びっくりすると同時に心から喜んで、笑顔になった。
「結婚? まあ、おめでとうございます」
 ミレイユが息を弾ませると、マリオットはますます赤くなり、額の汗を拭った。
「はい、あの、相手はパリにいる幼なじみで、リュシルといいます。 小さな本屋の娘ですが、手紙によると最近求婚者が現われたそうで、わたしとしては……」
「それは大変だ」
 テオフィルが真面目くさって言った。
「遠回りになって気の毒だが、まずデフォルジュを送っていった後、すぐパリに行きたまえ。 行き帰りの余裕をみて、三ヶ月休暇をあげよう。 ただし、めでたく式を挙げたら、奥さんの機嫌を損ねない範囲でできるだけ早く戻ってきてくれ。 君がいないと、ここは大変だからね」
「あ、ありがとうございます!」
 大喜びして、マリオットは口ごもりながら早くも椅子から腰を浮かせた。
 テオフィルは、気が急〔せ〕くマリオットを制して自室へ行くと、すぐ小さな袋を持って戻ってきた。
「旅費と結婚祝いに、これを。 おめでとう。 いつまでも幸せに。 大事なときだから、旅はくれぐれも気を付けて行ってきてくれ」
 マリオットは感激して、押し頂くようにして、ずっしりした袋を受け取った。





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