表紙

 -82- 全員を逮捕




 夜の九時を回った頃、テオフィルたちが意気揚々と戻ってきた。 蟹のような顔をした中年男を引き連れている。 その男が、ジュスタンの代理人らしかった。
 窓を開けて帰りを待っていたミレイユは、急いで階段を駆け下りて、一同を迎えた。
 テオフィルはひらりと馬から降り、レオンが後ろの貸し馬から引っ張り降ろした男を連れて、妻の待つ玄関前階段を上がった。
「見つけたよ。 ロジェ・バルゲリという男だ」
「誰に雇われたか話した?」
 テオフィルはしかめっ面になった。
「いや、妙に口の固い奴でね」
 ミレイユは危うく顔をほころばせそうになって、あわてて抑えた。 夫に内緒でジュスタン叔父を捕まえたけれど、結局それが実を結んだらしい。
「あの、お留守の間にまた襲われたの」
「なに!」
 テオフィルは顔色を変え、怒ったレオンは八つ当たりぎみに、捉えたバルゲリの手首を縛った綱を引っ張ってよろめかせた。
「無事だったのか?」
「ええ、もちろん。 あなたが用心して見張りを配置してくださったおかげで」
 そう説明してテオフィルを安心させた後、ミレイユはそっと打明けた。
「それでね、あきらめずにまた私をさらおうとしたから、皆で捕まえたの」
 一瞬あっけに取られた沈黙の後、歓声と拍手が巻き起こった。 テオフィルも目を輝かせて、ミレイユに大きくキスした。
「よくやった! 偉いぞ」


 すぐに、ミレイユと新しい家令のビセンテが一同を案内して、離れに向かった。
 その途中で、ミレイユは犯人について説明した。
「黒幕は、やはり叔父のジュスタンだったわ」
 テオフィルは険しい表情になって、額を強くこすった。
「話に聞いていた以上に執念深い男だったんだな」
「私も信じられないくらい。 私があなたという人と結ばれても、まだ財産を奪うことを諦めなかったの。 それどころか、あなたがいなくなれば遺産がついて、私がますます裕福になると計算したんですって」
「最低の男だ」
 そう唸った後、テオフィルはミレイユの手をぎゅっと握って力づけた。


 離れでは、手当ての済んだジュスタンが、フィリップ・バイエと同じ部屋に入れられていた。
 人がぞろぞろ入ってくる気配に顔を上げた二人は、対照的な反応を見せた。 フィリップが気まり悪そうに顔を伏せたのに比べ、ジュスタンは傲慢に顎を上げて、臆せずテオフィルを睨み返した。
「おまえか! わたしから大事な姪を盗んだのは」
「ミレイユは品物じゃない」
 テオフィルは威厳を帯びた声で、妄執の男を遮った。
「しかも、大事にしたことなど一度もないくせに、厚かましいにも程がある!」
 両足を踏まえて立ち、鋭く責める夫の姿に、ミレイユは目を見張って見とれた。 いつもはあんなに物静かなのに、いざとなればこれほど迫力が出せるのか。
 テオフィルの怒りをまともに浴びたジュスタンは、頬をぴくぴくさせながらも口を閉じた。 噂に聞いていたようなウドの大木とは違うようだと、やっと気づいたらしかった。






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