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今気づいた
昼少し前になって、テオフィルがミレイユを散歩に連れ出してくれた。
「用心は大切だが、気晴らしも必要だ。 今日は晴れて風もないから、ピクニックにいいと思って」
夫の思いやりに感激して、ミレイユは彼の腕を取ると、うきうき歩き出した。 ピクニックといっても、領地の外れにある眺めがいい場所に行くだけだが、歩けば運動になるし、退屈もまぎれる。 本当に何ていい人と結婚したんだろうと、幸せ一杯だった。
ミレイユの幸福感は、テオフィルにもすぐ伝わった。 目的の場所には、トネール川の支流になるきれいな小川が流れていて、柳の枝が揺れ、夏の花々が今を盛りと咲いていた。 柔らかい草の上を選んで腰を降ろすと、テオフィルは寄りかかってくる妻を固く抱きしめた。
「ここは背後に岩があるから、不意打ちを食う心配がない。 それに、ミシェルとレオンがあの林を見回ってくれているから、安心していいよ」
それからふと、彼には珍しく冗談を飛ばした。
「わたしだって大男だから、見た目は怖いかもしれないが、でも人畜無害だよ」
ミレイユはびっくりして、夫の頬に手を当てた。
「私、確かにずっと男の人が怖かった。 でも、あなたが怖いと思ったことは一度もないわ」
「それはありがたい」
「だから、結婚する勇気が出たの」
「結婚に気が進まないのは、感じていたよ」
「それでも、あの叔父に一人で立ち向かうのはもっと怖くて、だからあなたと子爵が来てくださったときは地獄に仏という気持ちだったわ」
さっきの満ち足りた空気がしぼんでいくのを感じて、ミレイユは懸命に説明しようとした。
「感謝したわ。 妻になったら足手まといにならないよう、精一杯がんばろうと決心したの。 ただ」
そこで言いよどんだので、テオフィルは少し待った後、静かにうながした。
「結婚生活は、思ったのとは違ったかい?」
「ええ」
ミレイユは、思い切って言った。
「全然違ったわ」
テオフィルは少しうつむき、具合悪そうに体を動かした。
「そうか……」
「そう。 まさかこんなに楽しくて、幸せなものだとは、思いもしなかった」
テオフィルの胸が大きくふくらんだ。 そして、振り向いた視線が強くミレイユを射た。
「幸せ?」
「ええ!」
ミレイユは自然に大きな笑顔になって、彼の手を握りしめた。
「あなたといると、周りが明るく見えるの。 こんな気持ち、親友のリリにしか感じたことがなかった」
目を妻の無邪気な笑顔に当てたまま、テオフィルは低く尋ねた。
「モンシャルム子爵には?」
ミレイユの額が、いくらか曇った。
「ええと、すてきな人だったけれど、実のところをいうと、一緒にいると疲れるの。 緊張してしまって」
「子爵はすごくもてるんだよ」
「そうですってね」
それからうっかり、ミレイユは本音を付け加えてしまった。
「私にはピンと来なかったけど。
リリの送り迎えをしていた店員のピエロという人も、うっとりするような美男で、友達はみんな騒いでいたわ。 私も彼が好きだったけれど、顔には見とれなかった。 彼がリリをそれは大事にしていたから、だから好意を持っていただけ」
──私は子爵より、あなたの顔のほうがずっとよかった──
そう言いかけて、ミレイユは電気に打たれたようになった。
それこそが、愛ではないのか。 私は初めから、子爵より伯爵のほうに強く惹かれたのではないか。
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