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意外な計画
約束の三時前、ミレイユは人目をしのぶ振りをして、裏手の出口からそっと外に出た。
西の離れは遠くはないが、そこまで行く道が何度も曲がっている。 少し離れて後をついて行くテオフィルが、途中で見失いそうになって、足を速めるほどだった。
離れは庭師たちが見張っているし、見晴らしのいい屋敷の最上階からは、秘書のマリオットが望遠鏡で見下ろし、庭にいては見えない全景を確保していた。
こうしてできるかぎりの準備をしたはずなのに、テオフィルの胸には不安があった。 どうにかしてミレイユを行かせまいとしたのだが、彼女は頑として聞かなかった。
「ジェデオンが死んでも共犯者は残っているわ。 捕まえておかないと、またあなたを狙うかもしれない。 やがて生まれる子供にも、そして私にも、あなたは絶対に必要な人なんだから」
前を行く淡い藤色のドレス姿に集中しながら、テオフィルは三度角を曲がった。
すると眼前に、ぬっと大きな植え込みが立ちふさがった。 こんな設計にした父を内心で呪うと、テオフィルは密生して伸びた柔らかい枝をせわしなく避けて、一歩踏み出した。
その瞬間、銃声がとどろいた。
テオフィルの心臓が、一拍外して打った。
しまった! 敵は自分ではなく、今度はミレイユを狙っていたのか!
もう身を隠すなどという考えは飛んでしまい、テオフィルは突んのめるようにして走り出した。
三十メートルくらいの距離まで来た離れの周辺からも、庭師たちが次々と姿を現して駆け寄ってきた。
皆の視線が、すぐ一点に集まった。 さんざしの小さな茂みの前に、ミレイユが立ち尽くしている。 手にした小型拳銃から、白い煙が細く立ち昇っていた。
撃ったのはミレイユだ……!
ほっとしたあまり、テオフィルは座り込みそうになった。
「ミリー!」
夫のかすれた叫び声に、ミレイユはゆっくり振り返った。 そして、声もなく左手で前を指し示した。
白っぽい小道に、赤い血の跡が点々と続いていた。
テオフィルがしゃにむに妻を抱きしめている傍で、真っ先にジェレミーが血痕を追っていった。 その後ろをレオンが続き、他にも数人がついていく中、庭師頭のマッティは残って、主人夫妻を気遣った。
「奥方様、お怪我は?」
そう言われて思い出して、ミレイユは拳銃を持ったままの右手で、左腕の関節あたりを軽く揉んだ。
「いきなり腕のここを掴まれたの。 声を出せないうちに口を塞がれて、引っ張っていかれそうになった。 だから」
「よく撃った」
逆でなくて本当によかった、と、テオフィルの声が震えた。
「途中で君をさらうなら、この地点しかない。 ほとんどどこからも死角になっているからな」
「私をさらってどうするの?」
ミレイユは声を上げた。 テオフィルはいやいやをするように首を振り、深い溜息をついた。
「もっとも効果的だよ。 わたしを苦しめるには」
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