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夫を守って
「遠乗りに行こうとなさっていたのよね?」
初めから気になっていたことを、ミレイユはようやく訊くことができた。
テオフィルは額をこすり、あっさりと答えた。
「そうだ。 最近エクトールの運動が足りないと思ってね」
「おかしいわ」
思い切って、ミレイユは疑問を夫にぶつけた。
「ジェデオンは、あなたが四日ほど旅に出ると言ったのよ」
テオフィルの手が止まった。 そして、疲れた灰色の目をミレイユの視線と合わせた。
「君に無断でわたしが旅に? ありえない」
やっぱり。 嬉しさがどっと込み上げてきて、ミレイユは思わず祈るように夫の手を握った。
そこでテオフィルは眉を寄せ、何かを思い出した。
「そういえば、そろそろパリに戻らないと、とは話した。 コトネー侯爵夫人のご遺体は、密かに礼拝堂に移して埋葬を済ませてあるが、まだ公式に亡くなったと発表していない。
ちゃんとした葬儀の手配をしなければと、マリオットとも相談していたところだった。 きっとジェリオンは、その話と勘違いして、わたしが先にパリに行ったと思ったんだろう」
そうは思えない。
ミレイユには密かな確信があったが、証拠がないうちは決め付けられない。 だから、ほのめかすだけで済ませた。
「そういう勘違いは困るわね。 あなたがしばらくいないと思って、見つけるのが手遅れになったかもしれないわ」
「確かに」
妻の手を持ち上げて頬ずりしながら、テオフィルは低音で囁いた。
「あの地下倉には、水はけ用の穴があるんだ。 昔、トネール川が大雨で溢れて、中に浸水したんでね。 そこに口をつけて、助けを呼んだ。 すごい音がしたらしいね。 鬼とまちがわれるとは」
彼は笑ったが、ミレイユはまじめな表情のまま、夫の肩に顔を伏せた。
「よかったわ、排水口があって。 洗濯係たちが聞きつけて騒いだから、あなたを発見できた」
少なくとも一週間は旅なんかとんでもない、と医者にきつく言われて、パリ行きはマリオットに任されることになった。
幸い、彼はもともと侯爵夫人の腹心だったので、屋敷の事務に詳しい。 伯爵と細かく打ち合わせた後、汽車と馬車を乗り継いで行くことになった。
「コトネー侯爵夫人には本当にお世話になりました。 立派なお式になるよう全力を尽くします」
手配ができたら、すぐ至急便で手紙を出します、と約束して、マリオットはその日の午後にはもう屋敷を後にした。
彼がいなくなって、ミレイユはいくらか心細かった。 前からの知人で信頼できるし、ミレイユの意見に全面的に賛成してくれた強い味方だったからだ。
でも今は、大事な夫が無事に戻ってきている。 元気になるまでは、自分の努力で何としても守らなければ。
マルロー夫人は信用できそうだ。 それに庭師たちも忠実らしい。 彼らに頼んで、伯爵に何も起きないように警戒してもらおう。 特に家令のジェデオンには注意しないと。
ジェデオンを嫌っている使用人はいないだろうか。 もしいたら、その人に家令をそっと見張らせよう。 きっと喜んであら探しをしてくれるはずだ。
ミレイユは頭を絞り、物知りの料理人マルシャン夫人にその辺の事情を訊いてみようと思い立った。
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