表紙

 -37- いい助っ人




 ミレイユにとって頼もしいことに、園遊会の話が出た五日後に、マリオットが到着した。
 彼は亡くなった侯爵夫人の秘書で、他の使用人と同じくテオフィルが再雇用していた。
 独身で穏やかなマリオットのほうも、顔見知りのミレイユに会えてほっとした様子で、笑顔で挨拶した。
「お嬢様、いえ奥方様、お幸せそうで、一段と綺麗になられましたな」
 ミレイユはぽっと頬を染めながらも、自分から近づいて、玄関で夫と立ち話していたマリオットを迎えた。
「あなたもお元気そう。 旅はどうでした?」
「幸い良い天気が続きまして、思ったよりずっと楽でした」
 そこでテオフィルが静かに口を挟んだ。
「わたしが呼んだんだ。 前に侯爵夫人から手紙を頂いた中に、彼の推薦があった。 有能で誠実な人だから、遺産を贈ると同時に続けて雇用してほしいと」
 マリオットの手から、鞄が音を立てて落ちた。
「は?」
「知らなかったのかい?」
 テオフィルは少し面白がっていた。
「大至急結婚したせいで、君に説明する時間がなかった。 モンルー侯爵夫人は、ちゃんと君にも財産を残していたんだよ。 向こうの銀行に送ろうとも思ったが、こちらのほうが確実に手渡せるのでね。 決して少なくはない額だから」
 マリオットは大きく息を吸い込み、目まいがしたような顔になって、弱々しく微笑した。
「それは……想像もしておりませんでした。 こちらに雇っていただけただけで、胸を撫でおろしていたもので」
「では早速、書斎に来てくれ。 他の相談もあるし」
「かしこまりました。 では奥様、また後ほど」
 宙を歩くような足取りで、マリオットは大きな伯爵に従って書斎に向かった。


 昼食の席で、テオフィルは妻に詳しく経過を説明した。
「マリオットを早く呼んだのは、わたしの秘書として仕事をしてもらいたいためと、君の園遊会の助けになってほしいからだ。
 侯爵夫人が病身になった後は、彼が食事会などを陰で仕切っていたんだろう?」
「ええ、そうだったわ」
 思い出して、ミレイユは声を弾ませた。
「あの人なら、招待状の書き方やお客選びに慣れているはず。 きっとうまく手伝ってくれるでしょう」
「よかった。 わたしは近所の事情にあまり詳しくないのでね、その辺りは女中頭のマルロー夫人に聞いて、情報を仕入れてくれ」
「また助けてくれたのね。 ありがとう、大好きなあなた」
 感謝と愛情が入り混じって、自然にそういう呼びかけが口から出た。 テオフィルはちらっと妻のほうを見て、照れたように視線を皿に落とし、猛烈な勢いでうずらのパイを攻略しはじめた。




 マルロー夫人は、園遊会が開かれると聞いてひどく喜んだ。 また昔のように館が華やかな雰囲気に包まれるのが、嬉しくてたまらないらしい。
「先の奥方様が生きておいでのときは、昼食会や夜会で、よく大広間をお使いだったんですよ。 蝋燭もまだ沢山、倉庫に残ってますしね。
 あ、もちろん園遊会もなさいましたよ。 どちらかというとお茶会でしたけどね。 奥方様はお若いから、もっと賑やかなのをお望みなんでしょう?」
「そうね」
 おしゃべりの洪水に圧倒されながら、ミレイユはなんとか希望を述べた。
「ご近所の有力者と神父さまを知りたいの。 あなたならどなたを招けばいいか知っていると、伯爵に言われて」
 実力を認められたと思ったのだろう。 マルロー夫人はいっそう張り切った。





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