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周辺の確認
テオフィルがひとつキスをして自分の部屋に戻っていった後、ミレイユはジェルメーヌを呼び、身づくろいしてから階下に降りていった。
屋敷の奥方の仕事はいろいろある。 献立を料理番に言い渡すのも、その一つだ。 大叔母に女主人としての心得を仕込まれたミレイユは、緊張ぎみながらも義務を果たそうと決意して、ジェルメーヌと共に厨房へ向かった。
そのときには既に七時を過ぎていて、使用人たちはとっくに起きているはずだった。
前日、着いた早々に彼らと挨拶し、短時間で主な情報を聞き出してくれたジェルメーヌのおかげで、居間と厨房の位置はわかっていた。 二人が短い階段を下りて、厨房の扉を開けると、中の話し声がぴたりと止み、五つの顔がいっせいに出入り口へ向けられた。
そこにいたのは女性ばかりだった。 全員が立って、仕事をしている。 朝食の準備をしているらしく、ハムが皿に並んでいて、大きなボウルに卵が三個ほど割り込まれたところだった。
最初の驚きが過ぎると、丸パンのような顔をした中年女性が奥から進み出てきて、高い声で挨拶した。
「おはようございます、奥方様」
少し後ろから、ジェルメーヌが腹話術のように、口をほとんど動かさないで教えた。
「料理人のマルシャン夫人です」
ミレイユは安心して、自然と笑顔になり、丸パン夫人に挨拶を返した。
「おはよう、マルシャンさん。 昨夜のスフレはとてもいいお味だったわ」
名前を呼ばれたことと、どうやら自慢料理らしいスフレを褒められたことで、マルシャンの肩から力が抜けた。
「ありがとうございます」
そして、言われる前に朝食に出すものの紹介を始めた。
「こちらがポーク・ソテーのほうれん草和えで、こちらが炒り卵とハム、それにキャベツの酢漬けもございます」
「おいしそうね。 いただいた後で、お昼と夜の献立を相談したいのだけれど」
「はい、奥方様」
「では、十時に話し合いましょう。 ここへ来る途中で通り抜けてきた、暖炉のあるお部屋で」
「はい、奥方様」
「皆さんもよろしく。 名前を聞かせてくださる?」
揃いのキャップを被り、清潔なエプロンをまとった手伝いの娘たちは、互いに顔を見合わせ、一番年長らしい子から次々と名乗った。
「マリーです」
「ソフィーです」
「エヴァです」
「リサです」
マリーにソフィーにエヴァとリサ。
顔の特徴と名前を頭の中でつなぎ合わせて、ミレイユは素早く覚えた。
使用人を尊重し、ひいきしないよう気をつけ、できるだけ名前を覚えて呼びかけること。
それが大叔母の教えだった。 そして、こう付け加えることも忘れなかった。
「大事にするのはいいわ。 でも引き回されないこと。 中には主人に取り入って、自分の思うように動かそうとする野心家もいるの。
そして、彼らをよく観察して、どのくらい信用できるか、しっかり見極めて。 あなたならできるはずよ。 苦労しているんだから」
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