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二十年前に
ミレイユは目を伏せて、ワイングラスを手に取った。
夫の家庭は不幸だったのか。
思えば、彼の過去はほとんど知らないのと同じだ。 両親の名前、行った学校、兄弟は元からいなかったのか。
大叔母が生きていれば、きっと詳しく教えてくれたのに。
その傍らで、テオフィルは無表情に鹿肉のオレンジ添えを口に運びながら、目だけでしっかりと友達を牽制した。
ジョスランは気弱な笑いを浮かべ、すぐに話を変えた。
「夏のノルマンディーは素敵ですよ。 川で舟遊びができるし、少し足を伸ばせば海も見える」
「うちはアミアンだぞ。 少しじゃすまない」
「それでも六、七十キロだろう? パリから行くより遥かに近い。 最近じゃ海水浴も流行ってるというしな」
「海を見たいかい?」
テオフィルはミレイユに視線を移して、静かに訊いた。 ミレイユはあまり考えず、横に首を振った。
ジョスランは眉を上げ、残念そうな顔をした。
「奥方はおしとやかなんだね」
「そうだ」
なんとなく満足そうに、テオフィルは答えた。
食事の後、友人二人で遠慮なく話ができるように、ミレイユは早めに部屋へ上がった。
寝支度をして、数冊持ってきた本から詩集を一冊選び、広げたところで、ドアが開いてテオフィルが入ってきた。
彼は今度の旅に、付き人を連れてこなかった。 自分で髭剃りや服選びを簡単にこなしている。 だから従僕三人は暇で、用事がない限り下にいて、同じような身分の客たちとしゃべったり、遊んだりして楽しんでいた。
一家の主の登場で、ジェルメーヌは控え室に姿を消した。 テオフィルは窮屈なシャツの襟元のボタンを外し、ミレイユに笑いかけた。
「疲れただろう? 明日の夕方には屋敷に着くから、明後日からはゆっくりできるよ」
ミレイユはまばたきした。 伯爵家の馬車は最新型で、頑丈ながら軽く、馬が楽に早く走れるということだった。
「お友達は?」
「よくしゃべる奴だ。 別れたときも、まだ飲み仲間を探してきょろきょろしていた」
上着を脱いで顔を洗った後、彼はシャツ姿でベッドに座り、ミレイユに軽くキスした。
それから、頬に優しく触れた後、低い声で切り出した。
「さっきあいつが言った、うちの家族のことだが」
ミレイユは緊張して、話の続きを待った。
「どうせわかるから、わたしの口から話してしまおう。
二十年前、わたしが九歳のとき、母が消えたんだ」
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