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偶然に再会
驚くより先に、ミレイユはカッとなった。
最近こんなに腹が立ったのは初めてだった。 相手が貴族だというだけで、よくもこんな正反対の悪口を言いふらせたものだ。 人もあろうに、テオフィルが冷血だなんて!
意地悪げなくすくす笑いが、すぐ横で聞こえた。 ミレイユは我慢できず、鋭い眼差しで、口に手を当てている太った女を睨みつけた。
周りに連れがいるからだろう。 女は平気で見返してきた。 だがミレイユも負けずに、歩きながら視線を据えつづけ、ついに相手のほうがまばたきして目をそらすまで頑張った。
テオフィルはその間、平静にテーブルを避けて歩んでいた。 まるで何も聞こえなかったかのように。
だが、奥の受付に着くと、本心がわかった。 普段は出さない威厳のある大声で、はっきりと彼は言い放った。
「アランブール伯爵夫妻だ。 居心地のいい続き部屋を頼む」
宿屋の主人は腰を低くして、ぺこぺこしながら使用人を呼び、上の部屋に案内するように言いつけた。
その間、背後では小波〔さざなみ〕のように、ひそひそ話が広まっていた。 ちゃんとした奥方さんなんだってよ、という声が聞こえ、ほんとかどうかわかるもんか、と唸り声が返った。
ばかな人たち、と軽蔑を感じながら、ミレイユは夫の肘を取り、並んで階段を上がり始めた。
そのとき、外から勢いよく入ってきた男性が、二人の背中に声をかけた。
「テオじゃないか!」
夫妻は足を止め、段の途中で振り返った。
人を掻き分けるようにしてやってきた男性は、丸く明るい顔を一杯の笑いにほころばせて、いきなりテオフィルに抱きついた。
「驚いたな! めったに領地を出ない君が、こんなところに」
テオフィルは岩のように表情を変えず、男の腕を叩いて落ち着いた返事をした。
「ジョスラン、君か」
「いやぁ懐かしい。 もう三年になるかな」
「パリで式を挙げた帰りなんだ」
こともなげに、テオフィルがミレイユを押し出すようにして紹介した。
「妻のミレイユだよ。 ミレイユ、この男は学校友達のデュルフェ子爵だ」
子爵はあっけに取られた表情で、テオフィルに寄り添う白百合のような美女を見つめた。
そして、無意識に呟いた。
「まさか、そんな……」
それから、自分の言葉が耳に届いたらしく、真っ赤になった。
「いや、つまり、あんまり驚いたもので。 おめでとう!」
彼が両手でテオフィルの手を掴み、思い切り振ったため、狭い段に立ったままのテオフィルはよろめきそうになった。
この友達の登場で、夫妻は荷物だけを上に運ばせ、また食堂に下りて彼と歓談することにした。
右側に用意された上客用の仕切りに入った後は、壁のせいで落ち着いて話ができた。 ワインを酌み交わしながらも、ジョスランはどうしても信じられない様子で、ミレイユの顔を眩しそうに眺めては、視線をそらしていた。
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