表紙

 -21- 初めての夜




 やがて肩から夜着がずらされ、肌が冷たい空気にふれて、ひやっとした。
 だがそれも僅かな間だった。 すぐに引き締まった固い体が上から覆い、ミレイユのきゃしゃな背中は敷布に埋もれた。 テオフィルは、ガウンの下に何も着ていなかった。


 それから起こったことは、不思議な体験としか言いようがない。 裸で人と抱き合ったのは初めてだし、体中に手が触れる感覚も奇妙だった。
 でも、愛〔いつく〕しまれているのはわかった。 夫は時間をかけて彼女の体をほぐし、不意に驚かせないよう、できるだけ気を配っていた。 ややぎこちないのは、遊び人ではない証拠だろう。
 ミレイユは感動した。 これまで男と名のつく存在には荒っぽい扱いしか受けたことがない。 だからこの行為も、せいぜい義務的にすぐ終わるのだろうと予想していたのだが。
 それで、受身なだけではなく協力しようと思いついた。 彼の首に腕を回し、頬に頬を押し当てた。


 テオフィルが、一瞬息を止めた。
 それから、いきなりミレイユを強くかき抱くと、頬ずりを繰り返した。 彼の顎はなめらかで、夜になってわざわざ髭を剃り直したのがわかった。
 本当に、どこまで思いやりのある人なんだろう。
 次々と明らかになる細やかな気遣いに、ミレイユはうきうきしはじめた。 改めて、大叔母の眼力に感謝する。 私一人だったら、逆立ちしてもこんな立派な人にはめぐり合えなかっただろう。 それどころか、どこかで出会っても、振り向いてさえもらえなかったに違いない。


 やがて、キスを繰り返した後、その瞬間が訪れた。 ミレイユは少し驚いたが、特に抵抗は感じず、痛みもなかった。 むしろ、これだけ? と意外なぐらいだった。
 彼女が落ち着いて幸せそうなので、テオフィルも張り切った。 二人は初めての儀式をつつがなく終え、彼は大きく息をついて身をひるがえすと、妻のすぐ脇に横たわった。
 ミレイユは、ぼんやりと明るい天井を眺め、小さく欠伸〔あくび〕した。 それを見たテオフィルが、片肘をついて半身を起こし、低く囁いた。
「ゆっくり寝るのに、わたしは邪魔かい?」
「いいえ」
 何を考える間もなく、ミレイユは答えてしまった。 そして、後悔しなかった。 邪魔どころか、逆に傍にいてほしい。 そのほうが、きっと安心して眠れるから。
 もう一言つけくわえたかったが、眠気が強すぎて口が動かなかった。 それで代わりに頭をかしげて、彼の腕にそっと添わせた。
 やがて上掛けが体を覆うのが感じられ、ミレイユはますます安心して、目を閉じるか閉じないかのうちに、深い眠りに落ちた。







表紙 目次 前頁次頁
背景:Star Dust
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送