表紙

 -17- 新たな部下




 ミレイユは、自分付きの小間使いを連れてきていなかった。
 そもそも最初から、そういう使用人を置いていなかったのだ。 大叔母は気にして、専用の者を選ぶようにとよく言っていたが、ミレイユは断っていた。 髪を結うのは階下の掃除係が上手だったし、服の着付けはリネン係のベテランがとてもうまかったので、彼女たちに特別手当を出して頼んでいた。
 つまり、ミレイユは穏やかで無口な年上の婦人が好きで、年の近い小間使いが苦手だということだった。


 この屋敷では、誰に世話を頼めるだろう。 ミレイユは勇気を出して、親切そうなレノア夫人に訊いてみることにした。
「あの、私は……私達は明日には出発するので、一日だけ世話をしてくれる人が見つかるかしら? できれば年配の人がいいのだけれど」
 レノア夫人は弓形の眉を上げ、すばやく考えてすぐ思いついた。
「それでしたら部屋女中のジェルメーヌがいかがかと。 物静かで、とても器用ですし、以前に御前様の母上の小間使いをしていたことがありますから、役割は心得ています」
 まるで私の心が読めるみたい──ミレイユは感心して、レノア夫人に感謝を込めた微笑みを向けた。 物静か、という点が特に心を惹いた。
「理想的だわ。 ではその人にお願いします」
「かしこまりました」
 満足そうに夫人もにこにこ顔になって、軽い足取りでジェルメーヌを探しに退出していった。


 その後、ミレイユが窓に寄って、自由奔放に花が咲き乱れた自然な雰囲気の中庭に、パリには珍しいと思いながら見とれていると、軽くドアがノックされて、背の高い中年女性が入ってきた。
 彼女は膝を折って一礼し、低く響きのいい声で自己紹介した。
「ジェルメーヌ・ラフォンでございます。 お呼びだそうで」
 それは、想像したよりずっと優雅な美人だった。 冷たいほど無表情なので、ミレイユの人見知りが戻ってきそうになったが、女性使用人の扱いは妻の責任。 これだけはテオフィルの助けを求めるわけにはいかない。 勇気を奮い起こし、大叔母を真似してきちんと声をかけた。
「よろしく。 お風呂を使いたいので、下の人に伝えてもらえますか?」
「はい、ただいま」
 ジェルメーヌはしとやかに答え、タフタの衣擦れの音を立てながら、すべるように部屋を後にした。


 これでミレイユは、少し自分に自信がついた。 わずかずつでも、伯爵夫人という役割に慣れなければ。 そして、仕事の多いテオフィルに負担をかけないようにしなければと思った。
 その決意は、立派な浴槽で気持ちよく入浴し、見事な形に髪を結い上げてもらった後、ますます強まった。
 間もなくわかったことだが、ジェルメーヌは初印象とは違って冷たくはなく、むしろ奥ゆかしい女性だった。 それは、湯上りにタオルを渡すタイミングや、髪を丁寧に梳く手際の優しさに表れていた。 淡い金髪を上でふっくらとまとめ、巻き毛を二筋耳の横にさりげなく垂らしたスタイルで、ミレイユは王冠をかぶったように華やかになり、思わず鏡を二度覗き込んでしまった。
「まあ、私ではないみたい。 優雅な貴婦人だと皆さん騙されてしまうわね」
 背後でかすかな笑い声が揺れた。
「奥方様が優雅でなければ、どなたが優雅だと?」
 ミレイユは急いで振り返り、ジェルメーヌの表情を確かめようとした。 心にもないお世辞には、残念ながら慣れている。
 しかし、目を合わせたジェルメーヌの顔には、困ったような驚きが浮かんでいるだけで、皮肉の影はどこにもなかった。
 ミレイユは肩の力を抜き、赤くなって微笑んだ。 胸が次第に温かくうるおい、レノア夫人の判断力に拍手を贈りたくなった。
「すべてあなたの腕よ。 私にはあなたが必要だわ。 どうかしら、私の世話係になっていただけない? パリを長く離れるのが嫌なら、私が慣れるまでしばらくの間だけでも?」
 ジェルメーヌはわずかに目を見張り、明らかに驚いていた。
 やがて、その表情が嬉しさに代わった。
「ありがとうございます。 私でよければ、喜んでお供させていただきます」







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