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最終決断は
ミレイユの動悸が、一気に跳ね上がった。
カッと頭に血がのぼりかけたが、すぐ自分を制して、過去に男と名のつく者たちから受けた恐怖の記憶をよみがえらせまいとした。
それは成功した。 理由は主に、伯爵の態度にあった。 彼はふんわりとミレイユの背中に手を回しているだけで、強く引き寄せようとはしなかったのだ。 だからミレイユには、彼の上等なギャバジンの上着の肌触りと、質のいい香料の匂いに慣れるゆとりがあった。
やがてミレイユは、体を固くして逃げる準備をしなくてもいいのだと悟った。 伯爵が肩をさすりはじめたからだ。 それは、子供か妹をなぐさめるときの仕草だった。
不意にミレイユは、ほろりとなった。 この人は本当に頼もしい。 すばらしい保護者になるだろう。 一方、子爵は私を一人前の女性と見て、下にも置かないほど大切にしてくれる。
どちらかといえば、私は……
そこまで考えたところで、ドアにノックの音が聞こえた。
ミレイユはハッとして涙を目立たぬように拭い、伯爵から離れた。
「はい?」
ドアがうやうやしく開き、執事が厳しい表情で伝えた。
「お手紙が届きました。 大至急ということで、どうしてもお嬢様に早く読んでいただくようにと、使者が申しまして」
彼が差し出す手紙を、ミレイユは黙って受け取った。 そして封印を破ろうとして裏返したとたん、鋭く息を引いた。
執事が頭を下げて出ていった後、伯爵はミレイユを見守りながら、小声で尋ねた。
「誰からです?」
ミレイユは目を閉じた。 頭ががんがんしてきた。
「……義理の叔父です。 ジュスタン・デフォルジュです……」
「では、まず読みましょう」
感情を交えずに言う伯爵の言葉で、ミレイユは不思議と背筋がしゃんとなった。
「はい」
それでも、封印を解く指はかすかに震えていた。
開いた手紙は、やはり痛烈な内容だった。
急いで読み通したミレイユは、紙をかさかさ言わせながら、そっくり伯爵に手渡した。
「誰かが大叔母の死を知らせました。 すぐ後見役を引き継いだから、叔父が行くまで何もせず、じっとこの屋敷で待っていろと」
伯爵は渡された手紙に一瞬目をくれてから、ミレイユに視線を戻した。
「こうなると一刻を争います。 モンシャルム子爵を呼びに行かせましょうか?」
子爵を選ぶのかと、間接的に尋ねているのだ。 ミレイユは激しく瞬きした。
そのとき、不意に答えがひらめいた。 子爵と伯爵のどちらと一緒にいて安心できるかといえば、それは間違いなく、伯爵のほうだ。
もう時間がない、というぎりぎりの気持ちで、ミレイユは珍しく、相手の心を思いやるより、自分の望みを優先させた。
「あの」
「はい?」
「できれば私、伯爵様といたいのですが」
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