表紙

残り雪 65

ばれていた


 恋人がいない上に休日のスケジュールもないという、意外に寂しい美雪に付き合って、遥はブラッドリー・クーパーとかの映画をディスクで一緒に見た。
 確かに優しげな目をしていて、ちょっとタヌキ型のハンサムだと思った。 てんでに好きな姿勢を取って、二人でソファーに寄りかかり、クラッカーだのカキピーだのスナック菓子をずらっとテーブルに並べ、勝手な批評をし合いながらワイドテレビの画面を見るのは、なんともゆるくて楽しい気分だった。


 夕方になって、ようやく遥は腰を上げた。 居座りすぎかなと気になったからだが、美雪はまだ引きとめようとした。
「泊まってかない? もう一晩。 明日も日曜なんだし。 ねえ、明日は買い物行こうよ」
 ああ、みんな寂しいんだな。
 毎日、孤独な中で頑張ってるから、たまにネジをゆるめて、無責任に楽しかった子供時代に戻りたいんだ。
 遥はここ十年で初めて、幼なじみとしての美雪を再発見した。 そして、引っかけられたことを本当に許す気持ちになった。
「羽根伸ばしたいけど、仕事残ってるんだ。 うちは遠いから、暗くなる前に帰らないと。 ご馳走してくれて、ありがと。 電話するね」
「そう? 私もする。 かけたら出てね」
 遥は目を大きくした。
「もちろん出るよー、シカトなんかしない」
 ちょっとぎこちなく笑いあった後、遥は忘れ物も含めた荷物を持って、美雪の家を出た。 美雪も駅近くで買い物すると言って、一緒についてきた。


 空がスミレ色になり始めた頃、遥はようやく電車に乗った。 平日なら帰宅ラッシュにかかりかける時間帯だが、週末なのでそれほど混んでいなかった。
 車内で電話を受けるのが嫌で、いつも電源を切る。 それが習慣になって、その日も無意識に切っていた。
 すっかり暗くなってから、取手に着いた。 駅を出て、ごそごそとポケットを探ると、まずピンクの電話が出てきた。
 遥は思わず顔を歪めた。 ポケットに突っ込んだまま、コートもろとも美雪の家のクローゼットに入れっぱなしになっていて、まる一日、見ることもしなかった。
 いちおうチェックしてみると、なんとメールが入っていた。 遥の心臓がギュッと縮んだ。


『三嶋遥さん
 昨日貴方が社長のところへ来てくれた時間、僕は貴方に会いに取手市へ行っていました。
 電話をかけてもきっと出てもらえないと思い、メールを送ります。 一度だけでいいから会ってください、お願いします。 どこでも行きます。
砂川俊治』

 
 







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