表紙

残り雪 60

捕まえた!


 八時近くなって、美雪がコートの襟を立てて急ぎ足で道をやってきたので、遥はホッとした。 いくらゆっくり食べても限界がある。 そろそろ店に居づらくなってきていた。


 美雪が偉そうに、カッカッと靴音を高く上げて歩いていく後ろを、遥は静かにゴム底靴で、少し離れてついていった。
 別に襲いかかるつもりはないが、肩を張った背中を見ているとどんどん腹立ちが大きくなってきた。 バッグで殴るぐらいはしていいんじゃないかと考えているうちに、もう相手は家に着いてしまい、門の鍵をガチャガチャと勢いよく開けていた。
 また閉められてしまう前に、遥は素早く近づいて、従姉妹のすぐ後ろに立った。
 振り返った美雪は、自分より五センチほど背の高い遥が凄い顔で睨みつけているのを発見して、おもわず門に張り付いた。
「ちょっと……!」
 遥はグッと美雪を押して、門の中に押し入れた。
「説明しなさいよ」
「ちょっと!」
「全部話せっての」
「待ってよ!」
 美雪は金切り声に近くなってきた。
「乱暴するんなら人を呼ぶわよ」
「呼べば?」
 負けるもんか。 遥はこれまでの人生で一番、猛々しくなっていた。


 開いた門からずるずる押しこくられて、美雪は玄関にくっついた。 近所の目を気にしたのか、声が急速に小さくなった。
「ほんのいたずらだったのよ。 ユーモアがわかんない人ねぇ」
「嘘ついて人を他県から呼び寄せといて、ほんのいたずら!」
「だからすぐあの後で、ドッキリでしたーってばらす予定だったの。 まさか窓から這って逃げ出すなんて、考えてなかったから」
 そこで美雪はどうしても、もう一言付け加えずにはいられなかった。
「髪ふり乱しちゃって、サダコみたいだったわよ」


 この〜〜クソ女!
 遥は迷わず足を出すと、美雪のパンプスを思いっきり踏みつけた。 ゴム底だから被害を加えるほどの力にはならなかったが、それでも美雪は悲鳴を上げた。
「いったーー〜い!」
「冗談じゃ済まない」
 遥は低い声で、はっきりと告げた。
「警察に突き出す。 こっちは証拠あるんだからね」
 美雪はびっくり仰天した。
「証拠って……そんなものあるわけないでしょ。 第一、いたずらぐらいで警察って大げさな」
「じゃ、これ聞けば?」
 そう言って、遥は携帯に録音しておいた男の脅迫文句を再生した。









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