表紙

残り雪 21

TV故障中


 美雪と目が合うと、俊治は儀礼的にニッコリした。
「これから食事? すぐ着替えてくるから、一緒に食べる?」
 美雪は困って、伏し目がちになった。
「あの、もう食べちゃったんです」
 驚いた様子で、俊治は壁の時計に目をやった。
「六時十分。 ずいぶん早いんだね」
「他にすることがなかったから」
 正直な答えに、俊治は歯を見せて笑った。
「そうか、笑ちゃんの部屋はすっかり片付けて、まだ何も置いてなかったよね。 ただ」
 笑いが引っ込んで、目が真面目になった。
「初めからテレビはなかったんだ。 笑ちゃんが嫌いで。 だからあの部屋には配線してないんだ」
 そう話しながら、彼は大型テレビに近づいて、リモコンを操作した。
「ここで見ればいい……あれ? つかない」
 やっぱり故障してたんだ。 美雪は肩透かしを食ったような気になった。
「参ったな〜。 三ヶ月前に買ったばかりなのに」
 俊治はぼやき、コート姿のまま、テレビ前のソファーにどしんと座り込んだ。 額に皺を寄せている。 なんだかすねた子供のようで、初めて彼が可愛く見えた。
 こうやって横から見ていると、俊治と峰高社長の顔立ちの似ているところと違うところがよくわかった。 俊治は社長ほど美男ではない。 だが口元は、彼のほうがキリッと締まって力強かった。
 二人がよく似ているのは、顔の輪郭と、すっきりした鼻の線だった。 肌は俊治のほうがやや浅黒く、そのためか全体がシャープに見えた。
「修理に出したら一週間はかかるだろうな。 新しいのを買ったほうが早いか」
 四、五十万ぐらいしそうな大型テレビを? 考える前に言葉が飛び出した。
「すごい発想ですね」
 すると、座ったまま体を斜めにねじって、俊治がこちらに身を乗り出した。
「早く壊れるテレビは欠陥品かもしれない。 直してもまたすぐ壊れるんじゃないかと思うな」
 まあ、そういうこともあり得る。 美雪はしぶしぶ頷いた。 それを見て、俊治はいたずらそうな顔になった。
「でも、君の考え方は好きだよ。 だから一応、電器屋に来てもらって、直せるなら直す。 これでどう?」
「はい……」
 なんとなくおちょくられてるみたいだ。 それでも、意見を聞き入れてくれたのは少し嬉しかった。


 それに、好きという言葉が使われたとき、胸の奥がドキッとした。 文脈からして大した意味はないのに、ひどく親密なことを言われたような、奇妙な気分になった。











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