表紙

残り雪 20

一人で食事


 個展って、いくらぐらいかかるものなんだろう。
 ぼんやり思い巡らせているうちに、美雪は社長の部屋に無造作に置いてあった現金とカードを連想した。
 同時に、自分の持つクレジットカードのことも。
 自分名義だから、万一財布を落としたりしたら怪しまれる。 財布はずっとスキニーパンツのサイドポケットに入れていた。
 美雪はちょっと考えた後、バスルームに入ってカードだけ取り出し、予備のトイレットペーパーを入れてある棚の下にすべりこませた。


 専用の居間に戻って改めて考えた。 もともとこの部屋にはテレビもパソコンもない。 社長の部屋と同じように、ソファーが二つ、椅子が一つ。 色はどちらも白だ。
 違うのは、窓の近くに白いデスクと専用のチェアーがあること。 引出しには文具一式が入っており、新しいメモ用紙やまっさらのノートも置いてあった。 どれも使った形跡はなかった。
 おそろしく退屈な部屋だ。 先住者のいきいきした生活ぶりは、まったく残っていないのだ。 いなくなったとき、中身をすべて他所へやって、ぬけがらの家具だけにしたらしい。
 もう服は片付けたし、峰高は寝てしまって今のところ呼び出しはなさそうなので、やることのない美雪は下のリビングへ行くことにした。


 一人でリビングルームに入ると、ただっ広い部屋が更に大きく見えた。
 冬だから、もう薄暗くなりかけている。 ドアの横にあるスイッチを押すと、メインの明かりの他に、壁際の間接照明が一斉についた。
 右側にある胡桃材のサイドボードに大型テレビが載っていた。 しかし、傍にあるリモコンを押しても画面は黒いままだ。 壊れているか、操作の仕方を間違えたのだろう。 俊治が戻ってきたら訊こう。
 美雪は早めの夕食を取ることにして、メニューカードをめくった。


 チキンライスとアボカドサラダ、それに茶碗蒸。
 二十分ほどで出来上がってきて、どれもおいしかった。 部屋が広すぎ、静か過ぎるのを除けば、いい食事といえた。
 ゆったり食べ終わった後、キッチンペーパーで皿を拭いてからエレベーターに戻した。 それから、リビングの探検にとりかかった。
 右奥の壁に取っ手がついていたので開いてみると、天井まである本棚が隠れていた。 手の届く範囲にブルーレイやDVDが二列、その下は雑誌や画集などが並べてあった。 美雪は喜び、しばらくイタリアの写真集を眺めて楽しんだ。
 見終わって立ち上がり、棚に戻そうとしていると、小さな音がしてドアが開いた。 全館暖房が行きとどいているせいで、冷たい風は入らない。 代わりに、すっきりした茶色のコートにエルメスのマフラーを無造作にかけて、俊治が入ってきた。











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