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残り雪 16
食事を運ぶ
上等な福袋をたくさん手に入れたようなものだった。 中身は一流店のホームウェアやパジャマで、シュニール織りの高価なハンドタオルや、一枚五千円以上するブランドのバスタオル、ふかふかのガウンなども入っていた。
超ぜいたく。
貰った品々を淡緑色のベッドカバーの上にずらりと並べて、美雪は吐息をもらした。 ここまで金に糸目をつけない買い物を見せられると、なんだか疲れた気分だった。
これだけの物をしまう場所を見つけなければならない。 美雪はゆっくり立ち上がり、続き部屋になっている居間と同じ型の白いチェストの引き出しを、上から順番に開けてみた。
中はすべて空だった。 ハウスキーパーが既に片付けた後らしい。 美雪は種類別に整理して入れていき、最後に寝室用の室内履きをベッドの横に並べた。
ちょうどそのとき、サイドテーブルに置いたインターフォンからメロディーが流れてきた。 『夢の中へ』の最初の部分だった。
手に取って、ボタンを押した。 すると、峰高のいくらかぼんやりした声が流れてきた。
「サンドイッチ」
夕食のことだ。 美雪はすぐに応答した。
「はい」
「カツサンドと、コーヒーをブラックで」
「カツサンドとブラックコーヒーですね? すぐお持ちします」
美雪は急いで居間に戻った。 そして、俊治の指示に従って洋服箪笥から笑のセーターを適当に取り出して、手早く着替えた。
ボトムは……まあいいだろう。 今着ている黒のスキニーパンツは、ブルーにホワイトの編みこみがV字型に入ったこのセーターと、よく似合った。
鏡で全身の服装を確かめてから、美雪は回り階段を駆け下りて、一階のリビングに入った。
メニューから選んで注文を入れると、二品とも五分足らずで上がってきた。 作りおきを温めただけか、それとも社長がよく食べるので準備してある料理なのだろう。
美雪はきちんとトレイを持ち、緊張ぎみに階段を上がっていった。
最初にノックしたとき、返事は聞こえなかった。 少し待ってもう一度ドアを叩くと、中からだるそうに返事があった。
「どうぞ」
失礼します、と挨拶してドアを開けた。 峰高はさっきと同じ身なりで、悲しげに黒いソファーに座りこんでいた。
青と白のセーターに目が止まり、その虚ろな表情がわずかに変わった。
「笑〔えみ〕……?」
後ろ手にそっとドアを閉めながら、美雪はできるだけ優しく答えた。
「違います。 加賀美雪です」
「だれ?」
峰高の皺ひとつない額に、眉がぎゅっと寄せられた。 ほんの一時間ほど前に会ったのを、すっかり忘れているようだった。
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