表紙

残り雪 15

仕事用備品


 コーヒーと紅茶をそれぞれ飲み終わると、まだ座ったままで、俊治はポケットからコロッとした白い物体を取り出した。 小さな携帯電話か、録音機器のように見えた。
「それから、これを渡しておくね。 インターフォンの子機なんだけど、このボタンを押すと親機を呼び出すこともできる」
 裏にノミのような字で書いた使用法が貼ってあったが、俊治は親機をもう一つのポケットから出して、実際に使って練習させた。
「で、こっちを社長の部屋に置いておくから、呼び出しの曲が鳴ったら行ってください」
「はい」
「朝食と薬の時間は、八時。 社長は昼飯抜きで、午後四時ごろに夕食と薬をとる。 加賀さんはもちろん、いつでも好きな時間にこの部屋で注文して、食べていいです。
 それと、食器は洗わないで、エレベーターに戻すこと。 下でちゃんと処理します」
 朝の八時と夕方の四時──美雪は頭の中で二回暗唱して、しっかり記憶した。


 リビングを出てドアをきちんと閉めると、俊治は改まった表情になって美雪に言った。
「じゃ僕はこれから仕事の続きがあるんで、会社に行きます。 夜になったら戻ってきて、上の四番目の部屋に泊まりますから」
「はい」
「住まいは別にあるんだけど、社長が元気になるまではここにいるつもりなんで」
 確かに心配だろう。 峰高さんはこの人より若く見えるが、社長なんだから。
 俊治のしっかりした顔を見上げて、美雪は考えた。 彼はどういう地位にいるのか。 専務? 常務か、それとも共同経営者?




 俊治が出ていくのを見送った後、美雪はゆっくり階段を上り、今日から自分の住居となった部屋に入った。
 疲れがどっと襲ってきた。 午前中からずっとパニック状態だった上に、突然新しい環境に連れてこられて、様々な指令に慣れなくてはならず、足元がふらつくほど動揺していた。
 転がり込むように寝室へ入り、ベッドに座ろうとして気づいた。 大き目のベッドの半分以上が、持ち手つき紙袋で占領されている。
 仕方なく、山のように積まれた袋の横にちょこんと座ると、美雪は手近なものから中を確かめた。
 最初のには、上等なランジェリーが入っていた。 白のショーツから紺色のボクサータイプまで、上品なカラーのMサイズが一ダース。 揃いのBカップのブラもあって、サイズが合わなければお取替えしますというメモがつけてあった。
 次の袋には、遊び心のあるトレーナーが詰められていた。 ピンクやブルーのパステルカラーで、胸にロゴや『ワンピース』のキャラなどがデザインしてある。 美雪は楽しくなって、次々と袋を開いていった。











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