表紙

残り雪 13

設備は豪華


 モニター部屋を出てドアを閉め、来た道を逆にたどりながら、俊治は話を続けた。
「あそこは備品室だったのを改装して、ガードマンに来てもらったんだ。 しっかりした人を選ぶのが大変でね。
 じゃ、具体的に君に何してもらいたいか、説明します」
 いよいよだ。 美雪は緊張で頬が強ばった。
「まず、社長に薬を飲ませること。 朝食後と夕食後の二回。 これは傍で見ていて、飲み忘れたり、飲みたがらなかったりしたときに手を貸すだけでいい。
 それと、着替えの回収と補充。 洗うのは業者がやるから、脱いだものをランドリーバッグに入れるだけで結構。
 洗濯物が戻ってきたら、クローゼットの棚に入れといてください。 名札が貼ってあるから、下着やジャージはそこへ。 カッターシャツやスーツは、今んとこ使ってないんで、整理する必要はないと思う」
「はい」
 美雪は真剣に答えた。 これから世話をするのは怪我人なのだから、手落ちがあっては申し訳ない。
「それから、掃除も二日に一度、専門業者が来てやります。 君の部屋も全部やるので、触られたくないものは引き出しか何かに入れといてください」
「はい」
「後は」
 俊治は二秒ほど考えた。
「そうだ、食事」
 そのとき二人は、玄関前のホールに上がってきていた。 俊治はそのまま止まらずにカーブを切って、正面の白い扉を大きく開いた。
 美雪の予想通り、そこはゆったりしたリビングになっていた。 正面は大きな一枚ガラス四面で成り立つフランス窓で、その向こうには屋上庭園ともいうべき緑豊かな空間がひろがっていた。 美雪の身長ぐらいある椿の木がぎっしり赤い花をつけているのが、鮮やかに見える。 右手はサンルームになっていて、真冬なのに桜草やミニバラが満開だった。
「あの奥にもミニキッチンとプライベート・バーがあって、料理を運ぶ小さなエレベーターがついてる。 ほら、こっち」
 俊治に差し招かれて、美雪はぎこちなく広い部屋を突っ切った。 二十坪以上ありそうな居間の突き当たりには、確かにミニチュアのようなかわいいエレベーターが壁に取り付けられていた。
 横のパネルを指差して、俊治が使い方を教えてくれた。
「食べたい料理のメニューカードをここに入れると、下に情報が送られて、出来上がりがエレベーターに乗って上がってくる。 レンジみたいにチンと鳴る音がしたら、このボタンでドアを開けて、テーブルに並べればいい」
 カードはミニキッチンのカウンターの上に、きちんと箱に入って置かれていた。 レストランと直結しているようなものだ。 さすが社長ともなると贅沢度が違う。 美雪はちょっと圧倒された。
「エスプレッソとかラテ、それにカクテルのメニューまであるんですね」
「飲み物やつまみなんかは、食事の前でも後でも、いつでも頼める」
 そう言うと、俊治は長い指でブラックコーヒーのカードを引き出し、尋ねるように眉を上げて美雪を見た。
 あっと、私も?
 美雪はためらいつつ、ダージリンティーのカードを抜いて、彼に渡した。










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