表紙

残り雪 9

初対面では


「社長さんは妹さんが生きてると思ってるんですか? それとも死んでると?」
 俊治は一瞬目をつぶり、渋面を作った。
「コロコロ変わる。 どこかにいるはずだと言い張るときもあるし、やっぱり死んだんだと頭を抱えることも」
「不安でしょうね……」
 次第に、怪我人に対する同情が沸いてきた。
「本人が運転してたんだし、責任感じて」
「それが一番辛いと思う」
 呟きながら、俊治は階段から手を離した。 そして、自分を励ますように一度両手の拳を作ってから、美雪の傍に来た。 もうおなじみになった清涼感のある香料の匂いが、ふっと鼻をかすめた。
「じゃ、社長に会いに行くか」


 階段は幅も長さもゆったりしていて、上りやすかった。 上り切ったところは半円形のエプロン状になっていて、大きな出窓があり、真っ白なカーテンがかかっていた。
 右と左の両方に廊下が続いていて、俊治は左手に曲がった。
「右は物置と家政婦さんの部屋。 それにミニキッチン」
 じゃ、下の階はメインのキッチンとバス・トイレとリビングなんだろうか。 普通のメゾネットマンションから連想して、美雪が間取りを考えている間に、俊治は五つ目の部屋の前で足を止め、軽くノックした。
「峰高〔みねたか〕。 入るぞ」
 中からはなんの音も聞こえてこなかった。 それでも俊治はためらいなくドアを開け、美雪を押すように前に出して、さっさと入っていった。
 

 下の真っ白なインテリアからして、美雪はなんとなく、社長の部屋を高級な病室のように思っていた。
 だが室内は、やたら広いのを除けば、普通の若者の部屋と変わりなかった。 ソフトグレーの壁にはポスターやステッカーが貼られ、奥の陳列棚にはカラフルなフィギュアが並んでいる。 一つ違うのは、黒のソファーに投げ出された写真雑誌が車やバイクのものではなく、小型飛行機の特集だということぐらいだった。
 部屋の主の姿は見当たらなかった。 だから美雪はあちこち見回して、社長の性格や個性を掴もうとした。
 こうやって見ていると、とても若いような気がする。 二十代後半か、最高でも三十代初めぐらい。 ポールに無造作に引っ掛けられているのは、着古した感じの黒のTシャツと藍色のコートだった。
「峰高」
 俊治が、もう一度呼んだ。
 すると、右側の壁がいきなり動き、スライドドアが開いて、中から男が現われた。


 美雪は、思わず息を呑んだ。
 縞のダボシャツとフリースの防寒用ズボンという、何とも冴えない格好で、頭には包帯隠しのニット帽を被っているにもかかわらず、峰高社長はこれまで見たこともないほどの美形だったのだ。









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