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夏は謎
-126- 遂に当日
再度の打ち合わせとリハーサルを終えると、いよいよ結婚するんだという実感が沸いてきた。
招待状はすでに発送し終わり、ほぼ全員から喜んで出席するという返事を貰った。 実をいうと、一割ぐらいは忙しいか都合が悪くて来られないだろうと思っていたので、嬉しいと同時に少し慌てた。 で、結局テーブルを二つ追加することになった。
式の前日、深夜から雨が降り始めた。
強い雨音で目が覚めた二人は、時間を確かめてから気をもみ出した。
「明日も雨だったらどうしよう」
「車で行くから大丈夫だよ。 祝辞で、雨降って地固まるって言ってもらえばいいし」
「予報では晴れなんだけど」
「まだ諦めることない。 朝まで待とう」
そんなこんなで、翌朝二人はあやうく寝過ごすところだった。
幸い、用心深い翼がアラームをかけていたおかげで、なんとか寝ぼけ眼で叩き起こされた。
持っていくものは前日に揃えてあるし、敏美の両親への挨拶は、
「いいのよ手放す気ないから。 理想に近いお婿さんをもらったと思ってるからね〜」
と絹世に拒否されてしまったので、二人は軽い食事を済ませ、念入りに風呂を使って、出かけるだけでよかった。
車を出したときはどんよりと曇っていて、ときどき小雨がフロントガラスにパラパラと落ちかかった。
だが、式場に到着したときには雲が切れ、薄日が射してきていた。 敏美は心から胸を撫で下ろした。
「よかった〜! いい天気になりそう」
バッグを下ろしていた翼も、手を止めて空を見上げた。
「うん、よかった。 すごく気にしてたもんね」
「だって、一生に一度のことだよ」
「うん」
翼はその言葉で、嬉しげな表情になった。
「確信持ってそう言える気がする。 一度も喧嘩してないし、しそうな感じもしなかった」
「別に無理してないのにね」
「それに、マリッジブルーにもならなかった」
そういえば。
「まだ独身貴族でいたいなんて、思わなかった?」
「ぜんぜん」
翼はいぶかるような口調で答えた。
「だって家買ったのは、家族を持ちたいためだったし。 リビングとか、あんまり家具ないだろ? いい人が見つかったら二人で買おうと思ってさ」
「そうだったんだ」
「そうだったの。 だから、結婚準備の間、お互いどこまですり合わせが効くかなって、毎日どきどきしてたんだ」
「えー? 落ち着いてたじゃない?」
「そう見えただけ。 でも敏ちゃんはさ」
「私は、なに?」
「趣味もよかった」
あれ?
思わぬオチに、敏美は笑いそうになった。
「ありがとう」
自分の言葉が唐突なのに気づいて、翼は説明を始めた。
「つまり、話が合うだけじゃなくて、上品なドレスとかいろんな世代に喜ばれる歌とかが好きな人だから。 そういうのもありがたいなーと思って。
だって、真っ赤なカーテンとか掛けられたらたまらないよ、あのリビングに」
「それは絶対にしない。 安心して」
軽口のような言い方だが、翼は誠実な愛情を伝えようとしているのだと、敏美にはわかった。 そして、胸がじんとなるほど嬉しかった。
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