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夏は謎  -125- 最終計画




 結婚式の準備というのは、思ったより大変だった。
 特に両家は、翼が一人息子だし、敏美もただ一人の娘というわけで、どちらの親にも式に対する思い入れと夢が沢山あった。
 結納式の日に、酒の入った両親たちが賑やかに話し合ったことを、敏美はその夜、忘れないうちにできるだけ全部、メモっておいた。 そして、不可能なこととお金がかかりすぎること、そして恥ずかしくてできないことを翼と共にカットしてから、現実的な計画に入った。


 結納のときもそうだったように、人前結婚なので仲人は立てず、それぞれの親友に司会をしてもらうことにした。 どちらからも快諾を貰い、彼らの都合を聞いて、二次会を予定しているカフェで打ち合わせをした。
「式の概要はこんな感じ。 式場と三回話し合って、ここまで詰めたんだ」
 技術系らしく、パソコンで作った見取り図と予定表を見比べて、翼の学友の晋川〔しんかわ〕は感心した。
「あいかわらずきちんとしてるな。 ほんと参考になる」
 え? という表情で、翼は笑顔の優しい晋川を見返した。
「おまえも予定あるの?」
「いやー、まだ。 でも、そろそろ考えたいな〜とは思ってるんだ。 相手いないが」
「いないのか?」
「そー。 俺の周りもみんないないよ。 おまえ、理科系でどうやって付き合えたの? まじで教えてほしい」
 本気めいて晋川が迫るので、翼は苦笑して話をはぐらかした。
「その辺はたぶん、式でわかると思うよ。 まあいいじゃない」


 敏美が頼んだのは、犬のトリミングを習っていたときのクラス仲間で、山岸美喜〔やまぎし みき〕という童顔の女性だった。 敏美より一つ年上で、明るくて親切、カラオケの名手だ。 子供っぽい顔に、ちょっとアンバランスなほどスタイルのいい体がついていた。
「あの、入場の仕方すごくいいと思うんだけど、そのときお客様たちに一本ずつバラを持ってもらって、花束にして記念撮影、すてきじゃないかな?」
「それいい! 書いとくね。 ええと、女性客からは淡いサーモンピンクで、男性からは白バラって、どう?」
「うんうん、目に浮かぶ」
 それから、音楽のタイミングやお祝いの演奏をしてくれる人たちの話、親しい招待客からの提案など、話題が次々と出てきて、四人は予定を一時間もオーバーして話し込んだ。




 翼は、土日と休日を入れて七日間、休みを取れることになった。
「外国で挙式っての、いま流行ってるらしいけど、うちは年寄りがいるから国内にしただろ? だから新婚旅行は海外がいいよな」
「そうね。 どこ行きたい?」
「オレは特にどこってないけど。 年末が近くなるから、北半球の寒い国はよしといたほうがいいかな」
「ウィンタースポーツができるよ?」
「そうか。 したい?」
 言い出しておいて、敏美は首をかしげた。
「どうかな……。 前にオーストリアかどこかで、登山電車が火災起こしたことがあったでしょ? あれ以来、スキー旅行には憧れなくなった」
「安全で楽しく遊べるとこがいいよな」
 二人はパソコンの画面に頭を寄せて、あちこち検索しては楽しんだ。












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背景:月の歯車
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