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夏は謎  -116- 必要な事







 夕方、翼は仕事を終えた敏美を迎えに行って、そのまま彼女の部屋に泊まりこんだ。 心が落ち着かず、恋人の傍にいたかったのだ。
 帰り道に買ったチーズカツ・サンドとビールを晩御飯にして、二人はしみじみと語り合った。
「他の隠し子さん、本当にいたんだ」
「うん。 一般とは少し考え方の違う人が。
 世田谷に来て、バーに勤めたのは、やっぱり父親に会いたかったからだと思う。 でも、もうジーさんは体を壊してて、ほとんど家にいなかった」
「会えないし、姿も見られなかったのね……」
 敏美も何となくシュンとなった。 それを見て、翼は気持ちを引き立てるように言った。
「だけど、そのバーでいい結婚相手にめぐり合ったから、悪いことばかりじゃなかったって」
「そうだよね」
 相槌は打ったが、やはりすっきりしなかった。 小橋夫人が和一郎を嫌うのは無理ない。 彼のほうがよほど恵まれていたんだから。
「慌てて抜いたボタンやシャクヤク、どうしたんだろう?」
「ああ、鉢植えにして、お得意様にプレゼントするって」
 うまい解決法だ。 今は真夏だから植え替えには向いていないが、ちゃんと根付いて来年も咲けばいいと願った。


 翌日は土曜日。 翼はめでたく休みだった。
 それでも朝、敏美と一緒に起きて、車で送ろうかと言ってくれた。
「いいよ、昨日もおとといも大変だったんだから、ゆっくり休んでて」
「ここで二度寝しちゃうよ」
「いいよー。 冷蔵庫のもの食べてもいいし。 でも、出かけるときには鍵忘れないでね〜」
 チュッと唇を合わせてから、敏美は足元も軽く部屋を出て、階段を駆け下りていった。




 午前中で仕事を終えての帰り道、敏美はまだ翼の両親が泊まりこんでいる木元邸に寄った。
 退屈していたらしい夫妻は、喜んで敏美を迎え、翼も呼んで昼食を一緒にしようと言い出した。


「さっきお義母さんのお見舞いに行ってきたのよ。 とても元気だった。 夜中のドロボーの正体がわかって、複雑な気持ちだけどまあよかったと言ってたよ」
 両親には、翼が前の晩に電話で詳しく話しておいたのだった。
「後は和一ちゃんだけが問題だ」
「そうよね、あの子、結構しつっこいから」
「こうなったら、皆の前で防空壕を掘り返して、中身をしっかり見たらいいんじゃない?」
と、翼が思い切って提案した。












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背景:月の歯車
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