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夏は謎
-115- 竜頭蛇尾
そこでまた、小枝子のもう一つの面が明らかになった。 なんと感激屋なのだ。
感情過多ともいうが、翼が何気なく尋ねた一言で、彼に対する見方がすっかり変わったらしい。 手を握らんばかりの勢いで、にじり寄ってきた。
「わかってくれた? うわー、警察よりよっぽど鋭い!
そうなのよ、あの子、何にも盗んじゃいないの。 ただ人より好奇心が強くて、それにあの家がおじいちゃんの住処だから中を見たいと、そう思っただけで」
やれやれ。 和一郎をかじったネズミのようなチビを弁護することになるとは。
話がどんどん予想外の方向に行くので、翼は内心困っていた。
「警察にそう言いました?」
「言った! でも聞いてなんかくれないわよ。 決め付けちゃってるんだもの。
まあね、盗品が出てこないから厳重注意だけで、記録に残らなくてまだよかったけど。 けど当然よね。 盗ったのは和一郎なのにー、なんでうちの末っ子が。 ああくやしい!」
小枝子はまた目を吊り上げて怒り出した。
ただ、小枝子たちも完全に罪がないわけではなかった。 庭の物置を勝手に使って、店の商品の一部を置いていたことは認めた。
チビが本当に無罪かどうかは怪しいものだと、翼は考えたが、泥棒より実家探検が目的だったという気持ちはわかった。
「和一ちゃんに話します? つまり、血が繋がってることを」
「どっちでもいいわ。 いや、やめとこうかな」
小枝子はさばさばしていた。
「娘が喜んで踊りの稽古に行ってるから。 止めさすの可哀相だし。
ともかく、ちゃんと和一郎家元に注意しといたほうがいいわよ。 あの人、踊りは絶品だけど手癖が悪すぎる」
よく冷えた家から出て車に戻る際、翼の気持ちが乱れていたのは、暑さのせいだけでなかった。
結局、小枝子は木元直昭の実子としての認知を要求しなかった。 遺伝子検査も必要ないと言った。
「そんなことしたら、死んだお母さんが怒る。 お父さんに本気で惚れてたんだ。 奥さんがいることも知ってたし。
それでも、彼に財産がなかったら、働いて金貢いでもいいと思ったんだって。
だから、私を喜んで産んだのよ。 父親のことで嘘つくはずない。 もう百パーセント信じてる。 それでいいじゃない?」
すぐカッとする扱いにくい人だが、和一ちゃんより好きだな、と、翼は思った。
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